「広報ブログ」開始から1年。成長性の見込める当社の事業領域を取り上げ、マテリアリティを起点に価値を創造する、という視点から書いてきた。各事業ではいま、そうした社会課題にひも付くポテンシャルマーケットを、どのように開拓しつつのあるのか。コニカミノルタは3月15日、資本市場およびマスメディア向けに「Konica Minolta Day」を開催した。そこで取り上げた4つの強化領域に関するプレゼンテーションから、価値創造プロセスの「いま」をあらためてみていく。
市場急拡大の可能性秘めるヘルスケア
コニカミノルタは各ポテンシャルマーケットの中で競争優位性のあるセグメントを選び、そこで勝ちきるストーリーを描き、それを実行することで、ジャンルトップを獲得していく、という戦略を取る。以下、4つの強化領域についてマーケットの「ポテンシャル」と、それを開拓するための「ストーリー」から事業の現在地を探ってみよう。
まずは、ヘルスケア事業におけるメディカルイメージングから。目指すのは、簡便に高度な診療を可能にすることで、QOL(生活の質)向上、早期診断、医療費抑制を実現すること。それによって、「健康で質の高い生活の実現」というマテリアリティに対応していく。核になるサービスは、X線動態解析システムと医療機関向けICTサービスプラットフォーム「infomity(インフォミティ)」。X線動態解析は、一般X線撮影装置で撮影した動画に独自の画像処理技術を加え、識別能向上、動きの定量化、肺機能情報の可視化などを実現する。簡便で低被ばくというのが特長だ。
メディカルイメージング分野の機器販売に関しては、一般X線撮影装置の普及度は高いながらも市場の伸びが堅調であることや、コニカミノルタ自身、アジアでの売り上げが2020年度以降、年平均20~30%で増える見通しであることから、市場の一定以上のポテンシャルが期待される。現在、導入先の多くは大学病院クラスだが、将来的には中小病院やクリニックといった身近な医療機関でX線動画撮影が一般的になることで、より高度な診断の普及が期待される。小林は「X線動態解析の市場開拓ストーリーについては、競合がないのが何よりの強み。早期診断が可能で医療費抑制にもつながる点に可能性を見込む」と語る。
一方、infomityは、医療機関の間での診察情報の共有を可能にしたり検査画像の読影依頼を支援するサービスを提供したりするもの。他社のクラウドサービスとも連携し、ICTサービス実装基盤として医療機関のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援する。2007年にサービスを提供開始して以来、顧客は約2万機関に上る。このサービス基盤を利用すれば、今後も様々なデジタルサービスを速やかに多くの機関に展開することが可能である。伸びしろは大きい。
「医療機関のワークフローを改革し、業務効率化をもたらす点や、サービス領域を患者にまで広げることで、安心感の提供にもつながる点に期待できる」(小林)。事業戦略上、パートナー企業との協業も開拓ストーリーにおける鍵の1つとされる。
インクジェット技術のさらなる用途拡大へ
次の強化領域は、インダストリー事業のひとつであるインクジェット(IJ)コンポーネント事業。IJの特長は、必要なところに必要な分だけインクやケミカルなどを印刷・塗布できることだ。お客様の生産現場のIJ化を推進することで、作業環境の改善や工程削減によるサプライチェーンの簡素化などのワークフロー変革をもたらし、マテリアリティの「働きがい向上および企業活性化」に貢献する。さらに、工業廃水の削減やVOC(揮発性有機化合物)・CO2(二酸化炭素)の排出量削減による環境への負荷低減は「気候変動への対応」に、在庫や廃棄物の低減は「有限な資源の有効利用」につながる。
強みは、祖業であるカメラ事業とフィルム事業で培った「精密加工技術」と「ケミカルの力」、そして工業分野で長年培った「顧客対応力」の3つ。とりわけ工業用途で優位点として挙げられるのは、「ケミカルの力」の1つであるマテコン耐性、つまり使用するインクの溶剤や酸・アルカリに対する適性のあるIJヘッドを設計する技術力のことである。「そこには顧客からすでに高い信頼性を得ている」(中嶋)。
IJコンポーネント事業の対象市場は、サイングラフィックス用大判プリンタや、商業印刷・パッケージ印刷などのPOD(プリントオンデマンド)、プリント基板やディスプレイの製造工程におけるパターン形成といった工業用途など多岐にわたる。主に紙への印刷に使用される基盤領域と、包装やプリント基板など従来工法からIJへの置き換えを図っていく成長領域の2つに分けられる。
「工業用途はとりわけ今後の成長が見込める」と中嶋は話す。コニカミノルタの推計では、工業用途を含む成長領域の市場規模はIJヘッド価格ベースで2022年度は430億円。それが、2025年度に向けて年10%以上伸びていく見通しだ。電子デバイスなどの製造工程におけるIJ化の促進、包装用途などのIJ化によるワークフロー変革、さらに立体物への直接パターニングや3Dプリンタなど、新たなモノづくりにおいてもIJ技術の活用を見込んでいる。
環境貢献度が高い商業・産業印刷
3つめの強化領域は商業印刷・産業印刷だ。この領域もポテンシャル、開拓ストーリーともに明確である。大きな流れは、アナログ印刷からデジタル印刷へのシフト。さらに、ブランドオーナーの購買パターンや印刷会社の経営環境が変化したことで、デジタル印刷出力がコロナ禍前の100~150%に回復・増加してきた。「印刷のデジタル化によって印刷物、印刷会社、ブランド、それぞれが抱える課題は解消へ向かう」と植村は語る。
例えば印刷物では、画一的、大量廃棄、製造上の廃液・廃材といったアナログ印刷の課題が、デジタル化による環境負荷の最小化や印刷物特有の媒体価値の提供を通じて解消される。それが、「気候変動への対応」や「有限な資源の有効利用」というマテリアリティへの対応につながる。
コニカミノルタの推計を基に2019年以降のデジタル印刷機器市場の伸びを見ると、商業印刷では向こう10年で年平均4.4%、産業印刷のラベル印刷では同6.0%、パッケージ印刷では同20.0%、テキスタイル印刷では同11.6%。パッケージ印刷で伸びがひときわ大きいのは、市場そのものが大きい一方で、デジタル化は遅れているからだ。
攻略の武器は、アナログ印刷からデジタル印刷へのシフトを妨げている「ラストワンマイル」に対するこだわりだという。印刷物のサプライチェーンの中でブランド企画や印刷プロダクションの現場に寄り添った価値提供、それを武器とする。具体的に言えば、1つは「納得する印刷物が仕上がるまで」のこだわり。オフセット印刷の品質再現や印刷+後工程までのこだわりを例に挙げる。もう1つは、印刷オペレーターやブランドオーナーの目線に立った「プロが使いこなせるまで」のこだわりだ。「例えばデジタル化の余地がまだ大きなパッケージ印刷では、印刷の後工程まで含めた全体合理化がデジタル化を進めるためのカギ。納得する印刷が仕上がるまでのこだわりが、その全体合理化を後押しすることで、デジタル化を加速させる」(植村)。
大きな将来性を見込む計測の新領域
4つ目の強化領域は、インダストリー事業のハイパースペクトルイメージング(HSI)。高精度で光の波長の違いを識別し、物の成分等の微妙な違いを判別する技術だ。この領域を担うべくコニカミノルタグループに加わったフィンランドのSpecim(スペキム)社は、HSI適用を容易にする産業用途向けソリューションプラットフォームの展開を加速中。産業用途ではHSIカメラ市場の伸びを上回る年平均20%近い成長率を上げている。
グローバルに各種産業での利用が見込まれる中、とりわけ期待が寄せられるのが、プラスチック廃棄物の分別だという。OECD(経済協力開発機構)によれば、2000年以降の20年間で世界のプラスチック廃棄物は2倍以上に増え、そのうちリサイクルされているのは約9%にすぎないとされる。分別を可能にするHSIには大きな将来性が見込める。
Specim社がさらなる成長を求めてコニカミノルタグループに加わったことから明らかなように、HSIの領域を攻略するカギを握るのは、シナジーをどこまで創出できるかという点だ。同社CEOのTapio Kallonen氏が想定するシナジーのうち攻略に通じるのは、2つ。
「まずは販売地域の拡大。センシング事業の販売会社との協業が念頭にある。そして顧客セグメントの拡大。コニカミノルタ販売会社との協業でブランドオーナーへの訴求強化を狙う」(Kallonen氏)。プラスチック廃棄物以外にも食品の分類・品質管理や環境・農業・地質・鉱物の計測と適用領域は広く、「気候変動への対応」「有限な資源の有効利用」などのマテリアリティに対応する。
コニカミノルタは今年度、次期中期経営計画の発表を予定している。社会課題にひも付くポテンシャルマーケットの開拓を目指し、新たな事業ポートフォリオの中で、上記4つの強化領域も引き続き事業拡大の戦略をブラッシュアップしていくことになる。
*IJコンポーネント事業部長の中嶋清次は、Konica Minolta Day開催当時は同事業部の副事業部長として参加
*Imaging Insightのこちらの記事も併せてご覧ください。
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