新型コロナウイルス感染症の流行を背景にデジタル化が加速し、マーケティングにもデジタルトランスフォーメーション(DX)の波が押し寄せている。一方、デジタルメディアに依存した販促は、消費者の心に届きにくく効果が十分ではないという課題も生じている。そこでコニカミノルタが挑戦するのが、消費者の購買意欲を喚起するリアルな印刷物の投入だ。既に、顧客の好みに合わせた「おすすめ商品」の掲載で高い効果を発揮した事例も出ている。現在の取り組みや将来の展望を上席執行役員でプロフェッショナルプリント事業本部長の植村利隆に聞いた。

目次

あふれるデジタル情報、消費者には「飽き」や「不満」も

新型コロナウイルス感染症の流行は、世界の経済・社会構造を一変させた。なかでも、顕著なのがテレワークの普及などデジタル化の加速だ。

消費の領域でも、デジタル化へのシフトは急速に進みつつある。消費者の間では、WebやSNS、電子メールなどデジタルメディアで情報に触れ、インターネットを利用して非対面で購入するスタイルが完全に定着した。

一方、コロナ禍で加速したデジタル偏重、ネット依存の状況の中、身の回りに大量にあふれるデジタル情報に、消費者が「飽き」や「不満」を感じ始めているのも事実だ。Webや電子メールなどデジタルメディアを通した広告には心が動かず、「広告メールはすぐに削除する」「Web広告は開かない」という消費者も多い(図1)。

電子メールに比べて紙のDMは約1.7倍開封率が高い

図1 電子メールに比べて紙のDMは約1.7倍開封率が高い

(一般社団法人 日本ダイレクトメール協会 DMメディア実態調査2021から一部改変して引用)

“リアルへの渇望”が生まれつつある消費者の期待に応える手法がある。デジタル技術を駆使して紙に印刷を施したチラシだ。古典的な販促手段ではあるが、プロフェッショナルプリント事業本部長の植村利隆は「紙のチラシによって、Webアクセス率を1.7倍に増やした成功事例があります」と話す。キーワードは「パーソナライズ化」だ。少ロット印刷が可能なデジタル技術による印刷のメリットを活かす。

植村利隆・上席執行役員兼プロフェッショナルプリント事業本部長

「手に取って情報が目に飛び込んでくる印刷物は購買意欲を喚起する最後のひと押し」と語る植村利隆・上席執行役員兼プロフェッショナルプリント事業本部長

「おすすめ商品」の掲載をリアルな印刷物で実現

デジタル技術による印刷での成功例の1つが、冷凍おかずの定期便サービス「三ツ星ファーム」を展開するイングリウッド社の取り組みだ。同社は数十種類のメニューの中から、顧客が選んだ組み合わせの冷凍総菜を定期的に届けるサブスクリプションサービスを手掛けている。安定的な売り上げを確保するには、商品を購入した顧客の心に“刺さる”販促によって、さらにリピート買いを増やすことが有効だ。

そこで同社が選んだのが、顧客に冷凍総菜を発送する際にチラシを同梱する方法だった。チラシには、過去の注文履歴や閲覧履歴を踏まえ、顧客ごとの「おすすめ商品」を掲載した。「デジタルメディアではおなじみの『パーソナライズ化』ですが、それをリアルな印刷物で実現したことに意味があります」と植村は説明する。

「多くの企業が、デジタルメディアに比べ、実際に顧客が手に取るチラシやカタログなどの印刷物には、“最後のひと押し”で購買意欲を喚起する効果が高いことを感じ取っています。ただ、パーソナライズ化した印刷物を作成し同梱するには、データ管理や出力した印刷物の管理などに多大な手間やコストがかかるため、なかなか踏み切れませんでした」

デジタル技術と印刷を組み合わせたマーケティングDXを実現へ

今回、顧客別の印刷データ生成やチラシ同梱作業の効率化などをコニカミノルタ、イングリウッド社、物流企業のアイズ社と3社で検討した。コニカミノルタの社員自身もアイズ社の倉庫まで出向き、どういうやり方をすればなるべく手間をかけずにパーソナライズ印刷物の同梱・発送ができるかを探った。最終的に、3社は自動化システムの導入と人的オペレーションの双方を活用することにより、作業負荷を過剰に増やすことなくパーソナライズ印刷物を同梱する手法を見出した。

イングリウッド社の事例では、チラシに印刷した顧客別のQRコードにより顧客の動向を追跡、パーソナライズ化したチラシによるWebへのアクセス率が一般的なチラシの1.7倍に及ぶという高い効果を確認できた(図2)。

イングリウッド社のパーソナライズ化チラシ

図2 イングリウッド社のパーソナライズ化チラシ

「印刷業界は従来、『1部当たりのコスト』で印刷価値を計ってきました。私たちが今、デジタル技術による印刷によって提供したい印刷価値は『1部当たりの効果』です。チラシが顧客との双方向のコミュニケーション活性化に役立つと明確になったことで、パーソナライズ印刷物は一層浸透していくでしょう」。

DXの波はマーケティングの領域にも確実に押し寄せている。だが、植村は「デジタルメディアを使いこなせばマーケティングDXが可能になるわけではありません」と力を込める。「そこにデジタル技術を活用した印刷を組み合わせてこそ、効果を最大化できます。ポイントは、従来デジタルメディアで実践していた機能をリアルな印刷物で、それも最小限のコストと手間により実現することです。我々は今年7月、デジタルによる印刷で人と企業のコミュニケーションを革新する共創プラットフォーム『AccurioDX』を立ち上げました。パートナーを増やしながら真のマーケティングDXを実現したいと考えています」。

パッケージ・ラベルで感性に訴える色・デザインを印刷

「1部当たりの効果」を向上するコニカミノルタの取り組みはほかにもある。消費者を引きつける色やデザインを追求する「EX感性ソリューション」の提供だ。

コニカミノルタが長年培ってきた色の技術をベースに、広島大学と共同で、脳科学をもとに色やデザイン、輝度によって人が抱く印象や注目度を可視化する技術を開発した。「この技術を応用すれば、一人ひとりの印象に残る最適な色・デザインを見極められます。例えば、寒色を使うか、暖色を使うかといったことまでパーソナライズ化し、効果を最大化した印刷物を作ることも可能になるかもしれません」と植村は期待する。

感性ソリューションを活用した印刷物が消費者の購買意欲を喚起するのは、宣伝や業務のために使う「商業印刷」にとどまらない。パッケージ、ラベル、食品・洗剤に使うフィルム素材など「産業印刷」でも、大きな効果を発揮し得る。

「ある調査では、米国の大手スーパー、ウォルマートに陳列された商品のうち、Webやテレビコマーシャルなどで販売促進の対象になっているものは半分にも満たないことが明らかになりました。消費者は多くの商品と、小売店の売り場で初めて遭遇します。リアルな販売の現場では、直接目にするパッケージやラベルこそが心を動かし、消費者の購買活動の原動力になります」。

コニカミノルタは今後、感性ソリューションを活用し、地域別や属性別のパッケージやラベルの作成なども視野に入れる。消費者にとっては、魅力あるパッケージやラベルの商品が並ぶリアル店舗での買い物は、今まで以上に楽しいものになるだろう。ヒトの感性に働きかけた結果として、「衝動買い」や「ついで買い」が生まれる可能性も高い。

それを実現するには、パッケージやラベルでも少ロット印刷を可能にする設備が必要となる。「グループ会社の仏MGI社が開発した『アルファジェット』は1台で印刷や加飾の工程を完了できます。厚みのある印刷物にも対応可能です。いずれは、感性ソリューションをもとに、特定層の顧客に向けたパッケージやラベルを500個、1000個だけ作りたいといったニーズにも応えられると考えています」と植村は展望を示す。

停滞する日本の消費市場活性化の起爆剤に

少子高齢化や労働人口の減少を受け、印刷業界でも人手不足が大きな課題となっている。熟練の職人技に頼ることなく、美しく正確に印刷物を作成できるデジタルによる印刷のメリットは大きい。

デジタル技術による印刷は様々な社会課題解決にも貢献し得る。用紙の無駄が少なく、生産・輸送・廃棄によるCO2排出量を大幅に減らせる。アナログのオフセット印刷に用いるアルミ刷版が不要で廃液も出ない。コニカミノルタが提唱する5つのマテリアリティ(重要課題)の「気候変動への対応」や「有限な資源の有効利用」を可能にする。

加えてコニカミノルタは、独自技術を搭載したデジタル印刷機によって、印刷の前後工程の自動化という他社にないソリューションを提供している。これにより、印刷会社の経営効率やスタッフの作業効率を改善でき、マテリアリティの「働きがい向上及び企業活性化」にも貢献している。

今回、コニカミノルタはこうした社会課題解決への貢献に加え、リアルな印刷物の訴求力を極めることで「商品の販売を拡大する」という、企業にとってど真ん中の事業成長への貢献にも乗り出した(図3)。

モノが売れない時代に企業が成長するための切り札に。また長く停滞する日本の消費市場活性化の起爆剤に――。デジタル印刷機のトップ企業として、コニカミノルタのプロフェッショナルプリント事業が果たし得る役割は大きい。

コニカミノルタが2025年までに目指す印刷のサプライチェーン変革

図3 コニカミノルタが2025年までに目指す印刷のサプライチェーン変革

関連リンク

一人ひとりに想いを届ける AccurioDX | コニカミノルタ (konicaminolta.com)

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