脱炭素化、有限資源の有効活用、汚染物質の排出抑制――。あらゆる業界・業種の企業に、環境経営が求められる時代になった。ただし、環境対策には相応の投資と手間を要し、ビジネスにおける競争力向上と価値創出の阻害要因になり得ると考える企業は多い。コニカミノルタでは、環境価値と事業価値は両立可能であり、しかもステークホルダーや社会とそれらを共有できると考えている。環境経営を指揮する執行役員 環境統括部長の高橋壮模に、その取り組みと今後の展望について聞いた。

目次

新たな価値を生み出していくための事業機会

持続可能なビジネスを営む企業が果たす社会的責任として欠かせない環境経営だが、一般に、その実践は簡単ではない。

例えば、工場やオフィスの業務で消費する電力を温室効果ガス(GHG)の排出を伴わないものに変えるためには、太陽光パネルなど再生可能エネルギーによる発電設備の導入や排出権の購入など、これまで不要だったコストが掛かる。また、資源のリサイクルや有害物質の排出量削減にも、商品設計や生産工程の刷新が不可欠になり、生産性や品質の低下を招くリスクを抱える可能性がある。環境経営を重視するあまり、自社ビジネスの事業価値を損なうのでは本末転倒だ。持続可能なビジネスを実現するためには、事業価値を落とすことなく、環境価値を生み出すことが必要条件となる。

本質的難しさを抱える環境経営だが、高橋は明言する。

「コニカミノルタでは、環境対策を負担とは考えていません。顧客や取引先などのステークホルダーや社会とのつながりを密にし、新たな事業価値を生み出していくための事業機会と捉えて、環境経営を実践しています」

高橋壮模・執行役員環境統括部長

「2009年からライフサイクル全体のCO2排出量削減に取り組んでいた」と語る高橋壮模・執行役員環境統括部長

脱炭素化とコスト削減の両立を目指す活動を現場に根付かせる

コニカミノルタでは、2009年に打ち出した長期環境ビジョン「エコビジョン2050」の中で、2050年までに、自社製品のライフサイクル全体に渡る調達、生産、物流、販売・サービス、製品使用に伴うCO2排出量を、2005年実績値(206.7万トン)比で80%削減し、40万トンとする目標を掲げている。

高橋は、「近年になって、多くの企業が工場生産などでのCO2排出量だけでなく、サプライチェーンなど製品ライフサイクル全体の排出量の削減を目指すようになってきましたが、コニカミノルタでは、既に2009年からライフサイクル全体の排出量削減に取り組んでいました」と述べる。

「80%削減は、地球全体でのCO2排出量を自然吸収量と等しくするために必要な目標です。今日ほど脱炭素化に対する逼迫感がなかった2009年当時としては、かなりアグレッシブな目標であり、実現に向けた取り組みは現在も継続しています」

コニカミノルタは、自社製品のライフサイクルにおけるCO2排出量を実質的に削減し、社会的責任を果たすことを目指している。高橋はこう強調する。

「CO2排出権を他社から購入すれば、CO2排出量をゼロにすることは可能かもしれません。しかし、こうした方法では、自助努力によって追加的にCO2を削減したことにならないし、そもそも真の企業競争力を醸成できません。業務を遂行する現場で、脱炭素と売上貢献・コスト削減を両立させる活動を根付かせることこそが重要だと考えています」

2009年から現在に至るコニカミノルタの取り組みの中で、脱炭素化に向けた活動は進化し続けている。現在では、企画・開発段階で、製品やサービスに脱炭素化に向けた価値を盛り込む「サステナブルソリューション活動」、調達・生産時の脱炭素を目指す「カーボンニュートラルパートナー活動」や「サステナブルファクトリー活動」、販売・サービスにおいてお客様の脱炭素を支援する「サステナブルマーケティング活動」や「環境デジタルプラットフォーム」などを進め、自社製品にかかわるライフサイクル全体の多様な業務を対象にした環境経営を実践している。

環境経営の手法をステークホルダーと分かち合う

コニカミノルタの環境経営の特徴を端的に示す概念として、「カーボンマイナス」がある。その定義について高橋はこう説明する。

「カーボンマイナスとは、生産工程や製品の省エネ化によって、製品のライフサイクルにおける自社責任範囲のCO2排出量を削減するだけでなく、脱炭素化とコスト削減を両立させるためのノウハウを顧客や資材の調達先と分かち合い、自社責任範囲外の削減量が排出量を上回る状態を生み出すことを指します。自社の社会的責任を果たすだけでなく、ステークホルダーが社会的責任を果たす活動の支援をすることで、脱炭素化の効果を加速するとともに、コニカミノルタとステークホルダーの結びつきを広げ、ともに事業成長していくことが狙いです」

自社責任範囲のCO2排出量とは、自社の製品・事業に直接かかわるCO2排出量を言う。具体的には自社製品のライフサイクルに関わるCO2排出量であり、自社調達部材の製造、自社での生産、自社製品の物流、自社での販売・サービス、お客様での自社製品使用時である。一方、調達先での自社調達部材以外で発生するCO2排出量、お客様での自社製品以外で発生するCO2排出量は責任範囲には該当しない。しかしながら、コニカミノルタのCO2削減ノウハウや技術を提供したり、コニカミノルタの製品・サービスによりお客様の生産工程を変革したりするなど、自社責任範囲外のCO2排出量を削減することで貢献ができる。

カーボンマイナスとは、自社責任範囲を超えて活動することで、地球上のCO2削減により積極的に関わる活動と言える。また、活動の効果を見える化することで、より多くの人に定量的に実績を知ってもらい、CO2削減活動に積極的に関わってもらう機会となることを狙いとしている。

コニカミノルタの中期計画2022で掲げたカーボンマイナスの目標

コニカミノルタの中期計画2022で掲げたカーボンマイナスの目標

カーボンマイナス状態を実現するためには、2つの前提条件があると高橋は続ける。

「一つは、コニカミノルタが、環境経営のトップランナーであり続けることです。時代遅れで効果が薄いノウハウを他社に提供しても、どこも採用しないでしょう。もう一つは、環境価値と事業価値を両立させる手法や仕組みに関するノウハウを共有すること。たとえ効果的な脱炭素化の手法があっても、既存事業の価値が損なわれてしまうのでは意味がありません」

「実際、環境価値を創出するためには、これまでの仕事の考え方や進め方を変える必要があるため、最初はとまどう企業が多くあります。しかし、環境価値と同時にコスト削減など新たな事業価値が創出されている実績を見せると納得して取り組んでもらえるようになります」と高橋は語る。

コニカミノルタの中期計画2022の中では、顧客や調達先におけるCO2削減を、2022年までに自社製品のライフサイクル全体での排出量の3/4にまで高める目標を掲げている。そして、2030年までにカーボンマイナス状態を実現する計画だ。

既に、調達先におけるCO2削減活動では大きな成果を上げている。調達先の中で、中国 無錫工場周辺の11社、東莞工場周辺の12社、マレーシア工場周辺の15社、日本の1社の計39社に環境価値と事業価値の向上に向けたノウハウを提供した結果、2021年度までに1.7万トンのCO2削減と0.3万トンの資源有効活用を実現し、6億円相当のコスト削減を実現した。CO2削減量1.7万トンのうち、0.3万トンが自社調達部材の製造にかかわる削減量で、1.4万トンが自社調達部材以外の製造で発生するCO2の削減量になる。調達先とともに活動することで、自社責任範囲を超えて、調達先の社会的責任を果たす活動の支援を行い、より積極的に地球上のCO2削減に貢献できると言える。

ノウハウをデジタル化し、ステークホルダーとの情報共有を加速

これまで、コニカミノルタが社内で蓄積してきた環境経営手法のノウハウは、環境対策の専門家がステークホルダーの現場に出向いて共有していたため、対応可能な企業数は年間3~4社に限られていた。

そこで2020年からは、新たにデジタルツールを活用した「DXグリーンサプライヤー認定制度」を開始した。「これは、弊社の環境経営ノウハウをデータベース化したデジタルツールを活用して、調達先が自ら省エネ診断、課題改善に向けた施策を抽出・実行し、結果の確認を進めることができる仕組みです。この仕組みによって年間10~30社との活動が可能になります」と高橋は述べる。

さらに2021年10月からは、「DXグリーンサプライヤー認定制度」を発展させ、「カーボンニュートラルパートナー認定制度」をスタートした。デジタルツールを活用してできるだけ少ないエネルギーでものづくりを行い、その上で残ったエネルギーは再生可能なものを使用していき、調達先の脱炭素化を支援する。

この活動の目的は、コニカミノルタも調達先も顧客や投資家から選ばれる企業になること。具体的にはどういうことだろうか。

「調達先の顧客はコニカミノルタだけでなく、その他の企業も含みます。大半のサプライヤーはコニカミノルタより他の顧客への販売額が多い。すなわち、調達先にとってコニカミノルタ以外からも選ばれる企業になる活動ということになります」

「これら活動に活用するデジタルツールは、コンプレッサー、冷却塔、冷凍機、空調、照明、ボイラー、クリーンルーム、成型機、樹脂乾燥機に対応した9種類を用意しています。2021年度の単年実績でも、約1,300トンのCO2削減と、2,200万円相当のコスト削減を生み出しており、前年比135%と着実に効果を拡大しています」

調達先の脱炭素化を支援するカーボンニュートラルパートナー認定制度

調達先の脱炭素化を支援するカーボンニュートラルパートナー認定制度

コニカミノルタ流の環境経営を世界に広げる

コニカミノルタでは、マーケティング活動にも環境経営を広げている。

2014年から始めたサステナブルマーケティング活動。自社で実践してきた環境ノウハウを提供し、コニカミノルタの環境経営に共感いただいたお客様の環境課題の解決に寄与することで、信頼関係を構築し、ビジネスパートナーとして選んでいただくこと目的としている。この活動によって築いた顧客関係は500社以上にも上る。

「環境活動はあらゆる企業が直面している重要課題であり、多くの経営者がその戦略立案や実践について悩みを抱えています。コニカミノルタの製品やサービスの潜在顧客も例外ではありません。弊社が環境経営に注力し、成果を上げられるようになってからは、環境経営を切り口に潜在顧客が、門戸を開いてくれる例が増えてきました。環境価値が、商品価値や取引価値として認められつつあると言えるのではないでしょうか」と高橋は言う。

高橋壮模・執行役員環境統括部長

コニカミノルタでは、こうした潜在顧客のニーズに的確かつ効果的に応えるため、2020年6月にオープンな環境経営の情報共有の仕組みである「環境デジタルプラットフォーム」を立ち上げた。

サステナブルマーケティング活動では、顧客企業と当社のみの情報交流に留まる。しかし、サステナブルマーケティング活動で構築した500社に及ぶ顧客企業間で環境情報が流通すれば、参加企業は環境経営を進化させられる。こう考えたのが環境デジタルプラットフォームであり、環境経営の共創のエコシステムとも言える。

「このプラットフォームでは、2つの情報流通基盤を持ちます。1つは環境経営を高めたいと考えている企業が情報を持ち寄り、議論し有効な情報を持ち帰り環境経営に活かしてもらう場。環境戦略、再生可能エネルギー、省エネルギー、資源の有効活用の4つを主要テーマにして環境課題を共有し、解決策を共創するワークショップや、環境経営に関するノウハウを利活用可能な形のナレッジとして蓄積したナビゲーションMAPを提供しています。2つ目は参加企業による即効性のある環境ソリューションの提供などを用意し、企業間での情報の共有と有効活用を推し進める場としています。16社の賛同を得て開始しましたが、現在では68社にまで拡大しています」(高橋)。

米ゼネラル・エレクトリック社が導入して名を上げた経営・品質管理手法「シックスシグマ」やトヨタ自動車を飛躍させた生産管理手法「トヨタ生産方式(TPS)」のように、一企業で始まったビジネスイノベーションが世界中の企業に伝わり、企業競争力の源泉となった例はいくつかある。今、コニカミノルタは、環境経営において、世界に波及するイノベーションを起こそうとしている。

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