印刷メディアビジネスの総合イベント「page2025」が2月19~21日の3日間、東京・池袋のサンシャインシティで開催された。コニカミノルタは2025年春に発売予定のデジタルカラー印刷システム「AccurioPress 14010S」を自社ブースで国内初展示。印刷工程の自動化への更なる取り組みを強く印象付けた。一方、同社ブースでは、売上増・利益増を狙う印刷会社に向けた提案も人気を集めた。

目次

今春発売の新機種に注目集まる

日本印刷技術協会(JAGAT)が主催するpageは、印刷に関わる様々な関係者が参加するイベントで、1988年に初開催されて以来、今年で38回目となる。展示に加え、カンファレンスやセミナー、ブース内での商談などが活発に行われており、顧客拡大や情報交換の場として活用されている。3フロアにわたる会場を一巡りすると、目に入るのは「省力化」「DX」といった文字。デジタル印刷機の導入で省力化を図り、デジタルトランスフォーメーション(DX)にもつなげていこうという会場の空気には時代の趨勢を感じる。主催者発表によれば、今期の来場者数は3日間で計2万4580人。3日間とも前年度を上回り、前年度比3000人増を記録した。

東京・池袋で開催されたpage2025のコニカミノルタブース
東京・池袋で開催されたpage2025のコニカミノルタブース

コニカミノルタの出展ブースで前面に押し出したのは自動化である。今回はデジタルカラー印刷システム「AccurioPress C14010S」の新発売を控え、このシステムの国内初展示を目玉にした。特徴や機能を紹介するプレゼンテーションを1日6回開催したが、毎回ブースからはみ出すほど来場者を引き寄せた。

初展示の新機種AccurioPress C14010Sには来場者からの熱心な質問が相次いだ
初展示の新機種AccurioPress C14010Sには来場者からの熱心な質問が相次いだ

新機種の展示に焦点を合わせた狙いは、「働きがい向上および企業活性化」「気候変動への対応」「有限な資源の有効利用」など、当社が全事業を通じて取り組む5つのマテリアリティ(重要課題)を改めて訴求することにある。印刷業界に対しては、「使い勝手が良く、人手が掛からない高信頼性のデジタル機器を提供することが最も重要だと考えています」。コニカミノルタジャパン プロフェッショナルプリント事業部 ビジネスDX商品統括部統括部長の内田剛は説明する。

もう1つ来場者の人気を集めたのは、自動梱包ラインの専門メーカーでコニカミノルタの価値共創パートナーでもあるシプソルが開発した「メルパックライン」の実稼働展示。「目の前でシステムが動いていると、やはり注目度が違います」。コニカミノルタジャパン 執行役員 プロフェッショナルプリント事業部長の砂子慎一は笑顔を見せる。印刷物の封入からラベル貼り付け、仕分けまでを自動化し、人的ミスの削減や納期短縮を実現する。印刷物を自動で梱包する工程まで見てもらうことで、自動化を視覚面からも強く印象付けた。

収益改善の足掛かりは、原価管理の徹底に

「デジタル印刷の普及を通じて印刷工程の自動化を後押しするには、乗り越えるべき課題があります」と内田は指摘する。「日本印刷産業連合会が2022年に公表したデジタル印刷市場の調査結果によれば、印刷関連企業でのデジタル印刷機導入率は8割を超えたとも言われていますが、依然、世の中の印刷物の大部分はアナログ印刷によるものです。これは、まだデジタル印刷が主力となっていないことを意味します。デジタル印刷機器の性能に対する認知度は高まっていますが、それをビジネスにどう結び付けるか、多くの印刷会社はまだ模索中です」。

コニカミノルタジャパン プロフェッショナルプリント事業部 ビジネスDX商品統括部統括部長の内田剛
「デジタル印刷による収益改善をお客様に理解いただけるようになってきました」と語るコニカミノルタジャパン プロフェッショナルプリント事業部 ビジネスDX商品統括部統括部長の内田剛

コニカミノルタのデジタル印刷における顧客企業は中小規模の印刷会社が多い。設備投資の余力が潤沢ではないため、投資効果が見込めないとデジタル印刷への本格的な移行に踏み出しにくい。「そこでまず必要なのが、足元の収益改善です」。内田はそう訴える。

改善への足掛かりは、原価管理にあるという。「現状、印刷会社では固定費の詳細な把握が困難なケースが多いと聞きます。例えば500部の印刷を終えたとき、準備、印刷、加工、梱包・出荷という一連の工程で発生した固定費を算出するのは簡単ではありません。つまり、その仕事でどの程度の利益を得られたかをリアルタイムで認識しづらい状況が経営上の課題の一つとなっています」と内田は指摘する。

実は、今回の展示ブース内で、もう1つ秘かに人を集めていた一角がある。展示されていたのは、2024年4月に販売を開始したWebアプリケーション「AccurioPro Dashboard JobManager」のデモンストレーション画面だ。このアプリを利用すると、印刷データの入稿から印刷物の梱包・出荷まで工程全体の進捗をリアルタイムで可視化し、効率的な生産計画の作成や修正ができるようになるとともに、課題であった印刷物ごとの原価管理(=単品損益の見える化)が可能になる。

受注単価の引き上げを加飾印刷で実現する

「デジタル印刷では印刷工程の進捗を詳細に定量化することが可能です。そのためアプリを組み合わせることで各工程の開始と終了を把握でき、工程ごとの固定費などを迅速に可視化して客観的な評価が可能となります。原価管理を徹底できますから、使い方次第で利益を確保できます。このメリットをお客様に理解していただけるようになってきました」。アプリの意義を内田が説く。

当社が印刷会社における受注単価の引き上げに取り組みはじめたのは、2021年6月にまで遡る。印刷会社の「創注」を支援しようと、デジタル印刷を駆使したマーケティング提案を発注者に行えるクラウドサービスの販売を開始した。「創注」とは「減少する印刷物制作で確保してきた収益を、他のビジネスで補い確保すること」(日本印刷技術協会)である。

コニカミノルタジャパン 執行役員 プロフェッショナルプリント事業部長の砂子慎一
「紙メディアへの印刷は数量を減らしながらも付加価値を高める方向に向かうでしょう」と期待するコニカミノルタジャパン 執行役員 プロフェッショナルプリント事業部長の砂子慎一

様々な取り組みの中で、更なる単価引き上げの有力な武器になると考えられているのが「加飾印刷」である。これは、厚盛り効果のある3次元(3D)ニス加工やメタリックな表現を実現する箔押しなどによって見た目や手触りに特徴を持たせ、印刷物の付加価値を高める技術だ。「キラキラ感を加えることで受注単価が10倍に跳ね上がるケースもあります」。内田は付加価値の高さをこう強調する。

加飾印刷の広がりでデジタル印刷の再評価

コニカミノルタは2014年1月、この分野の開発力に富むフランスのMGI Digital Graphic Technology(現MGI Digital Technology)との間で資本・業務提携を行い、同社製品であるJETvarnish シリーズの販売を開始、2020年9月には追加出資を実施した。デジタル化の流れの中、印刷物の魅力をより高められるデジタル加飾印刷機の拡充は不可欠という判断からだ。

その後、日本国内市場において2021年6月には、デジタル加飾印刷機のエントリーモデルとなる卓上型の「AccurioShine 101」を発売。続く2022年8月には、コニカミノルタブランドとして初となる本格デジタル加飾印刷機「AccurioShine 3600」の発売にも踏み切った。

コニカミノルタの展示ブースでは、この加飾印刷のサンプルも展示した。例えば清涼飲料水の広告では、冷えたガラスボトルの表面に付着する水滴を3Dニス加工で表現している。この加工はAccurioShineおよびJETvarnishが搭載するIJデジタルUVニス方式ならではのものとなる。必要な場所にUVニスをドロップ・オン・デマンド方式で吹き付ける。仕上がりは、厚盛り効果もあって驚くほどリアル。シズル感が広告としての付加価値を高める。「ブランドオーナーである飲料メーカーにコニカミノルタ側から積極提案させていただきました」と内田が打ち明ける。

こうした付加価値を生み出すデジタル加飾印刷機がここ数年、印刷会社に徐々に受け入れられるようになってきた。現状を内田はこう分析する。「印刷会社が許容できる投資額の範囲内で単価の高い受注につながりそうな製品を提供したことが、成功につながりました。刷版が不要で自由度が高く、小ロットの注文にも応じやすい。そうしたデジタル印刷ならではのメリットが改めて評価されるようになり、加飾印刷のすそ野が広がり始めています」。

数量が減る中、付加価値で勝負する時代に

印刷会社の受注単価引き上げ策として加飾印刷と並ぶ流れには「パーソナライズ」がある。その典型例がダイレクトメール(DM)だ。なかでも顧客の属性や購買履歴などを基に、宛先ごとに異なる文面を用意する「パーソナライズDM」は、費用対効果の高さから受注単価の引き上げにつながり、印刷会社の生き残り策としても注目を浴びている。

費用対効果が見込める理由について内田は「同じ販売促進活動を展開するにしても、パーソナライズされた内容を用紙に印刷したDMを用いた場合には、電子メールやWebサイトなどデジタルツールを用いた場合に比べて、10倍ものレスポンスが見込めます。電子メールの場合にはスパム扱いとなった結果、認識されないことも少なくないですが、郵送なら一度は開封して中身を確認するのが一般的だからです」。

加飾印刷やパーソナライズDMの販促効果は大いに見込めるにしても、印刷物の総量自体が大きく増えることは期待しにくい。情報提供手段において、紙からWebメディアへという大きな流れは変わらないからだ。しかし、こうした高付加価値のデジタル印刷には、紙メディアならではの持ち味を引き出す力がある。「今後、紙メディアへの印刷は数量を減らしながらも付加価値を高める方向に向かうはずです。デジタル印刷への移行では、その流れを十分に意識しておく必要があります」と砂子は強調する。

砂子は印刷業界には産業として大きな可能性を感じると言う。「例えば、家電製品の部品工場は製品工場の海外展開に伴い、拠点を一気に海外に移しました。しかし印刷業界は基本的に地産地消で地域内に一定の仕事量が存在し続けるはずです。そこに、印刷業界の可能性があると思います」と期待を語った。

*Imaging Insightのこちらの記事も併せてご覧ください。