「環境対策は社会貢献。事業の成長に結びつくものではない――」。企業の間ではこうした考えがいまだに支配的ではないだろうか。コニカミノルタは、これまでもサステナビリティを経営ビジョンの中心に位置付け、事業計画に環境戦略を組み込み、事業拡大と環境貢献を同時に進めてきた。とりわけ環境貢献度の高いデジタル印刷機にフォーカスするプロフェッショナルプリント事業において、環境を味方に付けた事業の高いポテンシャルを具体的に見ていきたい。

目次

在庫レス・廃棄レスで印刷物の利点を維持

書籍やポスターなどを印刷する技術である、オフセット印刷に代表されるアナログ印刷の課題は本ブログの別記事でもお伝えした通りである。まず、インクを紙に転写するための版作りや印刷条件の調整に熟練工の存在が不可欠である。そして、作業を効率化するために、なるべく多くの印刷物を一括印刷することになり、大量廃棄の問題から免れない。さらに一括大量印刷が前提となると、鮮度の高い情報の伝達やきめ細かなコミュニケーションには向かない。機動性や柔軟性に勝るインターネットのメディアに押され、商業印刷物の価値は目減りする一方となっている。

こうした課題を解消するのがデジタル印刷である。使う時に使う分だけをオンデマンドで印刷することで、小ロットかつ短納期で印刷物を作成できる。また、無駄な部数の印刷を廃し、印刷物の配送で消費するエネルギーや紙・インクの消費を最小化。これによってCO2排出量や廃棄物の削減、資源の有効利用を実現する。加えて、印刷作業の効率化や省力化を推し進めることができ、熟練工不足への対応策にもなる。紙などモノに情報を記す印刷物の利点を維持しながら、アナログ印刷が抱えていた様々な課題を解消し、印刷物の価値を再び高め、持続可能なコミュニケーションツールへと変える手法といえる。

デジタル印刷ならば、使う時に使う分だけオンデマンドで印刷物を作成できる

デジタル印刷ならば、使う時に使う分だけオンデマンドで印刷物を作成できる

山田大策・プロフェッショナルプリント事業本部 副本部長 兼 産業印刷事業部 事業部長

「環境問題に関する社会課題への意識の高まりに応えるために、デジタル印刷への移行は必要不可欠」と話す山田大策・プロフェッショナルプリント事業本部 副本部長 兼 産業印刷事業部 事業部長

アナログ印刷からデジタル印刷に置き換える「アナログtoデジタル」のメリットは大きい。ただ、印刷会社や物流会社、さらには印刷物を発注するブランドオーナーなど印刷業界のステークホルダーは、慣れ親しんだ業務の進め方から切り替えることに躊躇する面もある。質の高い印刷物を作るための表現力が長年にわたって鍛えられたアナログ印刷は、クリエーターなどから依然高い信頼を得ていることも確かだ。

だが、プロフェッショナルプリント事業本部 副本部長 兼 産業印刷事業部 事業部長の山田大策は、「環境に対する社会要請の高まりに応えるために、デジタル印刷への移行は必要不可欠です。メリットをご理解いただくのは難しいことではありません」と語る。山田が関わった実例として、デジタル印刷を導入し、環境に貢献しながら付加価値の高い印刷スキームを実現したケースを紹介したい。

高付加価値のビジネスへ「三方よし」のイノベーション

金融情報の提供サービスを展開している株式会社アイフィスジャパンとの共創がその例である。多数の顧客それぞれのニーズに応じた情報を印刷物にしてタイムリーに届ける仕組みを、物流会社である八光社梱包運輸株式会社と共に構築した。

それまでアイフィスジャパンは、印刷物制作会社に印刷を依頼していた。そして、出来上がった印刷物は、物流を担当する八光社梱包運輸へと横持ち(輸送)し、そこで在庫と荷分け、配送を管理していた。このスキームでは、ブランドオーナーであるアイフィスジャパンが、制作する印刷物ごとに、制作会社と物流会社の双方に発注を掛ける必要があった。加えて、煩雑な受発注は、一連の管理コストや配送コストを押し上げ、なおかつ余剰分の印刷物の廃棄が常態化していた。

新たに構築した印刷スキームでは、八光社梱包運輸がコニカミノルタのデジタル印刷機を導入しオンデマンド印刷の体制を整えた。従来の印刷物の物流だけでなく、印刷業務も担うように役割分担を変更したのだ。これによって、アイフィスジャパンは管理・配送・廃棄コストの大幅な削減を、八光社梱包運輸は付加価値の高いビジネスを実現できた。印刷物の無駄な廃棄を無くし、配送を最小化することで環境面での貢献も大きい。

印刷に関わるサプライチェーンの変革。物流会社が印刷機能を担い、在庫レスのオンデマンド印刷を実現

印刷に関わるサプライチェーンの変革。物流会社が印刷機能を担い、在庫レスのオンデマンド印刷を実現

印刷業務を担う以前の八光社梱包運輸は、印刷業務の技術やノウハウの蓄積もなければ、専門的スキルを持つオペレーターもいない、言わば印刷の素人だった。「新しい印刷スキームを立ち上げる際には、印刷業務に実績を持たない企業でも、プロと同等品質の印刷物を作成できるようにすることが大前提となります。印刷業務の多くを自動化することで新たなオペレーションの懸念を払拭し、高品質な印刷物を円滑に作成できるまでコニカミノルタのビジネス開発グループ(=AccurioDX)が支援しました。」(山田)。

上記は、コニカミノルタが商業印刷や産業印刷のデジタル化の推進を通じて、サステナブルな社会の構築に貢献した好例である。デジタル印刷は、失われかけていた「印刷物」の価値を再び高め、「印刷会社」や「ブランドオーナー」などが抱えている課題を解決する、まさに「三方よし」のイノベーションと言えるだろう。

コニカミノルタのプロフェッショナルプリント事業推進による社会課題の解決

コニカミノルタのプロフェッショナルプリント事業推進による社会課題の解決

デジタル印刷の勢いを加速させる3つの取り組み

コニカミノルタでは、アナログtoデジタルを加速させるために、以下の3つの取り組みを進めている。

1番目は、デジタル印刷ならではのメリットを提供しつつ、既存のオフセット印刷と比べても遜色ない品質を高速かつ安定して再現できることである。オンデマンド対応のメリットは感じても、速乾性、対応素材の柔軟さ、色の安定性、そして高い生産性がなければ、デジタル印刷の活用範囲は限定される。「商業印刷セグメントにおいて安心して使ってもらえるデジタル印刷機を追求します。これは、当社のメカ・エレキ・ソフト・化学・物理など様々な分野の高度なすり合わせ技術の蓄積によるものです」(山田)。

2番目は、デジタル印刷の導入効果を、印刷会社だけでなく、ブランドオーナーや物流会社などの印刷エコシステム全体に波及することだ。印刷物の価値は、個に響く原稿の制作や印象を残す加飾などへの後加工、そして効率的な受発注作業、物流・在庫管理なども含めた印刷エコシステム全体で生み出される。このため、あらゆるステークホルダーが導入効果を実感できることが必要条件となる。

「アナログ印刷のスキームでは、印刷物自体に価値向上の余地が限定的です。このため、印刷物に対するブランドオーナーの要求は、どうしてもコスト低減と短納期化に集中しがちです。また、将来利用する分まで印刷しておくことが多いため、その在庫と廃棄にかかわる管理コストは誰にとっても無視できるものではありません。デジタル化によって実現されるオンデマンド印刷を実践すれば、この問題が一気に解消するとともに、アナログ印刷ではできないパーソナライズされたメッセージ訴求も可能になります」(山田)。

山田大策・プロフェッショナルプリント事業本部 副本部長 兼 産業印刷事業部 事業部長

「コニカミノルタには、印刷工程、ブランドオーナーによる企画、そして物流の現場で共に汗を流しながら、さらなる改善課題を発見することに喜びを感じるDNAがあります」

3番目は、見逃しがちだが実は最も重要な取り組みだと、山田は話す。印刷オペレーターなど印刷現場のプロが納得して、使いこなせるデジタル印刷ソリューションを提供することだ。過去にデジタル印刷機を導入したものの、機械特有の複雑さと各種チューニングなどに熟練した技術が求められたことが制約となり、十分活用されないケースが少なくないという。このため、使い手目線でデジタル印刷への移行作業を支援し、想定通りに活用できるようになるまで生産プロセスにおける細部に目を向ける必要がある。

「コニカミノルタには、現場の使い手と共に汗を流してお客様のビジネスを立ち上げることに喜びを感じるDNAがあります。自動化機能をフル活用しているかを確認の上、さらなる最適化を追求するお客様と現場で細部にこだわって新たな課題を発見し、ボトルネックの解消に向けて正面から取り組みます。地味ではありますが、これこそ将来に渡って持続可能なデジタル印刷オペレーションを根付かせるための必要条件なのです」。ここはコニカミノルタが強みを発揮する部分だと、山田は胸を張る。

山田大策・プロフェッショナルプリント事業本部 副本部長 兼 産業印刷事業部 事業部長

*Imaging Insightのこちらの記事も併せてご覧ください。