コニカミノルタは2023年度からの中期経営計画で「高収益企業への回帰」を掲げている。売上高と利益の中核を担うオフィス事業は、印刷需要が緩やかな縮小傾向にある中で「収益堅守事業」に位置づけ、安定的なキャッシュ創出を目指す。そのオフィス事業において、収益力強化の先導役となっているのが、独自の定額課金モデル「One Rate」だ。同モデルをグローバルに普及・浸透させるため、新卒入社6年目の若手、小曽根華乃がプロジェクトリーダーとして動く。オフィス事業の最大市場である欧州に自ら飛び込み、足がかりを築いた。小曽根の話をもとに、「One Rate」が担う役割や未来の可能性、そしてコニカミノルタの人財育成計画の最前線を追った。

目次

定額課金モデル「One Rate」とは

コロナ禍をきっかけとするリモートワークの増加やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展で、オフィスで書類を印刷する機会は減りつつある。複合機などを扱うオフィス事業は緩やかな市場縮小という環境変化の中、収益力向上を図るため、ある独自の施策を浸透させようと動いている。その施策が米国、欧州、APAC(アジア太平洋)地域の国々で展開する定額課金モデル「One Rate」だ。

デジタルワークプレイス事業本部販売統括部第1販売推進部第1販売グループに所属し、「One Rate」のプロジェクトリーダーを務める小曽根華乃にその仕組みから説明してもらった。

「従来の複合機ビジネスは『クリックチャージ』と呼ばれ、お客様が印刷した枚数に応じて支払っていただく『従量課金モデル』でした。『One Rate』は印刷枚数に関わらず、毎月、固定金額を支払っていただく『定額課金モデル』です。その金額には、国によって違いはありますが、ハードウェアやトナーなどの消耗品に加え、メンテナンスサービス、プリント管理、セキュリティー対策などのオフィスソリューションも含んでいます」

One Rateの概要
One Rateとは、ハードウェアとノンハード、オフィスソリューションを定額の月額課金サブスクリプションモデルにすることで、顧客の運用管理及び導入コストの平準化を図る契約形態である

「複合機は印刷用紙サイズやスピードによって機種のバリエーションがありますが、毎月の課金額はその機種ごとに設定しています。これまでの印刷実績などを評価・分析し、20種類ほどの機種の中から、納得いただける金額の機種を提案します」

「One Rate」は複合機を利用する顧客企業にとっても、提供するコニカミノルタにとっても新たな価値を生むモデルである。顧客企業にとっては毎月変動する請求金額を確認する手間が省ける。先々のコストの見通しがつくため経費管理も容易だ。

一方のコニカミノルタにとっては、提案価格の設定などが容易になり、経験の浅いセールスパーソンでも売りやすく、販売活動の効率向上につながる。さらに大きいのが、利益への寄与である。

「『One Rate』はオフィスソリューションのような付加価値部分も含むため、クリックチャージよりも金額が上がるケースが多く、粗利益額の増額効果があります」

「オフィス事業では、複合機本体や給紙・排紙オプション機器などハードウェア以外、つまり“ノンハード”がハードを上回る売上高や利益を獲得し、利益率も高くなっています。『One Rate』はそのノンハードの収益を下支えするという、とても重要な役割を担う施策なのです」

小曽根華乃
「One Rate」はノンハードの収益を下支えする重要な役割を担う」と語る小曽根華乃。デジタルワークプレイス事業本部販売統括部第1販売推進部第1販売グループに所属し、One Rateのプロジェクトリーダーを務める

米国でスタート、欧州ではコロナ禍影響を受け検討保留も…

「One Rate」は2018年、米国のコニカミノルタの販売会社が発案しスタートした。従業員数30人未満の顧客企業などからの「毎月金額が変わる従量課金モデルでは、管理に手間がかかり煩わしい」という声を拾い上げ、その課題解決のために導入した。

この施策の要諦は、月々の課金額の設定にある。顧客企業にとって、管理の手間が減る価値は大きいものの、「高すぎる」と感じる金額では受け入れられない。そこで、過去の印刷実績の膨大なデータを集め、入念に分析した上で納得感を得られる金額の設定に努めた。米国では、これまでに何度か固定金額やサービス内容の見直しを繰り返し、妥当な価格を調整してきたという。

2019年に、コニカミノルタは米国に続き欧州での「One Rate」導入も試みた。小曽根がまだプロジェクトに関わる前の話である。

「One Rateの目的や狙いを欧州の販売会社に説明している最中にコロナ禍に突入したことで、新しい施策に取り組む状況ではなくなり、導入の検討が棚上げとなってしまいました」

保留状態となっていた取り組みだったが、再挑戦の先頭に立ったのが小曽根だ。2022年に「One Rate」のプロジェクトリーダーに就いた。

「オフィス事業の中で、欧州は最大の売上を獲得する重要地域です。『収益堅守』のため、欧州への『One Rate』の導入は必須というのが経営層の判断でした」

「ところが、欧州の販売会社からは米国発案の価格施策を欧州市場に展開することを簡単には受け入れない反応がありました。『このまま日本から指示を出していても何も進まない。自分が現地に入り込み、直接施策を進めよう』と決断しました」

若手海外派遣プログラム「GLOW」第1期生に選抜

事業に大きな影響を与える欧州市場では30か国以上で販売活動を行っているが、売上規模の大きい国にいきなり飛び込むのは得策ではない。スモールスタートで確実に成果を出すことを考え、それほど規模の大きくないポルトガルに目を付けた。

「幸運なことに、その頃、コニカミノルタの人財戦略の一環で、ポルトガルとスペイン2か国の販売会社の社長を兼務する方が日本本社に1年間“逆出向”していました。『One Rate』導入の思いを直接訴えたところ、逆境の中でオフィス事業の収益を確保するための新しい取り組みが必要と考えていた社長の賛同を得ることができました」

ポルトガル販売会社
「GLOW」第1期生として飛び込んだポルトガル販売会社にて

もう1つ、小曽根の渡欧を後押しする出来事があった。2022年度から、コニカミノルタ社内で6カ月間行う若手海外派遣プログラム「GLOW」の募集が始まったことである。

「『GLOW』は参加者の自主性が求められるプログラムで、行き先も自分自身で決め、先方と合意を取っておくことが必要です。私はポルトガルとスペインの販売会社の了解を得ていたので、このプログラムを活用しようと考えました」

日本でのプレゼンテーション経て「GLOW」第1期生11人の1人に選抜された小曽根は2023年7月にポルトガルに渡り、販売会社のマーケティング部に所属することとなった。託されたミッションは2つ。1つはポルトガルとスペイン販売会社での「One Rate」の立ち上げと実行、もう1つが欧州全体に「One Rate」を広げる準備である。

「第1のミッション達成のため、徹底して行ったのが納得いただける固定金額の設計です。会社の利益を毀損することなく、かつお客様に受け入れていただける範囲の金額を探るのに2カ月近くかけました。提案を前向きに受け止めてもらえるよう、契約満了が近いお客様のデータを中心に見て、妥当な金額を探りました」

顧客に“刺さる”アプローチを探求する日々

金額を設定した後にはいよいよ顧客への販売となる。現地での営業にはポルトガル語を使うため、顧客とのコミュニケーションは現地スタッフに任せるしかなかった。そこで小曽根が活用したのが、自作の「プレイブック」である。

「『プレイブック』とは、セールスパーソンがお客様に販売していく際の“手順書”のようなものです。『One Rate』の提供価値や固定金額設計の考え方、訴求方法などを、米国での事例を混ぜながら50~60ページのパワーポイントにまとめ、説明する際の参考にしてもらいました」

小曽根が手がけたOne Rate販売の手順書「プレイブック」(抜粋)
小曽根が手がけたOne Rate販売の手順書「プレイブック」(抜粋)

担当の現地スタッフと毎日、密に情報交換し、プレイブックも日々ブラッシュアップしながら顧客に“刺さる”アプローチを探っていった。小曽根がポルトガルに滞在した半年間で、販売に充てられた期間は1、2カ月ほどだが、複数件の顧客獲得に成功した。

第2のミッションに関しては、作成したプレイブックを欧州全体に展開し、販売に向けた体制を整えた。また、2023年12月にはドイツにある欧州統括本社を訪問し、ポルトガルでの活動成果を報告した上で、欧州全体で「One Rate」に戦略的に取り組むことを訴えた。こうした働きかけが奏功し、現在では欧州の10カ国ほどで「One Rate」導入が始まっている。

お弁当の文化も活用、社員との信頼構築に心を砕く

半年間という限られた滞在期間で着実な成果を得た背景にあったのは、小曽根のコミュニケーション力だろう。

「ポルトガル販売会社に日本本社の社員が駐在するのは初めてということもあり、当初、スタッフとの間には距離を感じました。まずは現地スタッフと信頼関係をつくることを心がけました。『One Rate』の導入には、販売、マーケティング、経理、法務、サービスなど、様々な部門との連携が必要です。ただ『One Rate』を最優先で考える私と違い、スタッフはそれぞれの業務で役割を担っています。まずは親しくなって私自身に良い印象を持ってもらい、その延長線上で『One Rate』に協力してもらおうと考えました」

現地スタッフと信頼関係をつくることを心がけ、プライベートでも親しくなった
現地スタッフと信頼関係をつくることを心がけ、プライベートでも親しくなった

意識的に現地スタッフの中に入り込み、仕事以外の場面でも積極的に話しかけた。

「ポルトガルにもお弁当の文化があったのです。スタッフの多くが昼食時間にはオフィスの一角のフロアでお弁当を食べます。私も毎日、お弁当を持ってそこに行き、英語でどんどん話しかけました」

徐々に距離は縮まり、最終的にはプライベートでリスボン近郊の観光などにも現地スタッフと一緒に出掛けるほど親しくなった。

小曽根が現地に入り込んで関係をつくり、プレイブックなどの仕掛けを整備したことで、「One Rate」プロジェクトは欧州にしっかりと根を張った。

「ここから、欧州での導入件数をどんどん増やし、確実に利益に貢献する施策に育てていきます。先行して成果を出してきた米国でも、中小企業に加えて大手企業にも間口を広げたり、別のオフィスソリューションを加えたりと、さらなる成長戦略を構築します。」

屋台骨であるオフィス事業の「収益堅守」に向け、小曽根の奮闘は続く。

小曽根華乃

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