2019年の米中経済摩擦に端を発した半導体不足は、コロナ禍によって決定的なものとなり、物流の混乱と相まって全世界で部品調達や完成品の配送が大きな影響を受けた。複合機を中心としたコニカミノルタのオフィス事業も例外ではなかった。しかし大きな危機の中、関連部門の緊密な連携により生産台数を確保し、バリューチェーンを回復しつつある。本ブログでは、その経緯を2回に分けてお伝えする。今回は、生産・調達とSCMの活動について、上席執行役員 生産・調達本部本部長兼SCM担当の伊藤孝司とSCM部部長の神田烈に聞いた。

目次

グローバルなバリューネットワークに大きな打撃

コニカミノルタのオフィス事業は、海外に主力生産拠点を置いている。複合機の生産工場は中国の2カ所(江蘇省無錫、広東省東莞)とマレーシアの計3カ所にあり、日本を含むアジア各地から部品を調達している。販売網は欧州・北米を中心に、日本・中国・インド・環太平洋・中南米 などに広がり、150カ国・地域に200万の顧客基盤を有する(図1)。

図1 複合機の生産工場はアジアの3カ所、販売拠点は世界150カ国・地域に広がる

図1 複合機の生産工場はアジアの3カ所、販売拠点は世界150カ国・地域に広がる

「コニカミノルタは、人・場所・国に依存することのない、変動に強いものづくりの実現を目指してきました。グローバルに広がる顧客基盤は当社の強みですが、部品調達から製品組み立て、製品を顧客に届けるまでのバリューチェーンは長く複雑です。それゆえ、半導体不足やその他の部材調達の混乱によるダメージが早期に顕在化しました」。上席執行役員 生産・調達本部本部長兼SCM担当の伊藤孝司はこう振り返る。

長期間をかけて高い〝現場力〟を育ててきた

コニカミノルタでは、2007年頃から徹底した現場力強化と並行して現地化を進めてきた。「例えば、中国の無錫工場では日本人駐在員は5人程度、東莞工場では3人しかいません。約2,000~3,000人の現地スタッフが、課長から総経理(社長)に至る現場のマネジメント層として活躍し、さまざまなノウハウを蓄積しています。また、そのベースとなる5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の徹底を図り、長い期間をかけて現場力の育成に努めてきました。海外では地方政府がさまざまな新型コロナ対策を打ち出しますので、対応策を日本で臨機応変に立案するのは困難です。現地に権限を委譲することで、即断即決を実現しています」(伊藤)

上席執行役員 生産・調達本部本部長兼SCM担当 伊藤孝司

「権限委譲で即決即断を実現しました」と語る上席執行役員 生産・調達本部本部長兼SCM担当の伊藤孝司

半導体不足には異例のトップ会談と設計変更で対処

複合機生産においては、通常、協力先の基板実装先などから基板完成品をユニット単位で調達するため、コニカミノルタが直接、個々の半導体を調達することはまれだ。このため、当初は半導体不足の全体や連鎖状況を直接把握することはできなかった。

「そこで、各基板実装先や半導体を供給している代理店(商社)に対してヒアリングを行い、どの半導体が不足しているのかを当社が把握できるようにしました。その上で、当社の役員が半導体メーカーのトップと交渉し、必要な半導体の確保に全力を挙げました。基板実装先や半導体供給代理店を飛び越して半導体メーカーと交渉するのは異例のことでしたが、結果として経営トップ同士が直接交流できるようになりました」と伊藤。

「もうひとつが、半導体メーカーにとって供給が可能な部品を調達するようにしたことです。従来は、開発部門が仕様を決定し、条件を満たす半導体や部品を調達していました。それを、半導体メーカーが供給できる部品に合わせて設計を変更するという方針に変えました。大きなチャレンジでしたが、開発部門が困難なミッションをこなしてくれました」(伊藤)。この開発部門の活躍は後編でお伝えする。

複数地域にまたがるBCPを確立

これまで、東日本大震災、タイの洪水、国内大手半導体メーカーの工場火災など、調達や生産に関わる大きな災害や事件・事故に遭遇すると、コニカミノルタはその都度、BCP(Business Continuity Planning)を立ち上げ、知見を蓄えてきた。しかし、2019年に始まった難局は半導体不足にとどまらず、コロナ禍による自社・取引先工場の操業停止や上海のロックダウン(都市封鎖)による物流網の混乱など、世界の複数地域にまたがり複雑に絡み合うものだった。

「なかでも、2022年3月下旬に始まった上海のロックダウンには大きな影響を受けました。上海は取引先様工場が存在することに加え、中国・アジアの一大物流拠点でもあり、多くの部品・部材は上海を経由して各地に配送されます。上海と広東省深圳には弊社グループの調達会社がありますが、ロックダウンにより上海経由の部品や上海にある取引先様からの部品供給が当てにできなくなりました。そこで、上海地区外の取引先様からの供給を確保し、加えて上海を経由しない物流網を40ルート以上構築することで必要部品が工場に届き生産継続できるように、現地主導で提案、実行しました」(伊藤)

「各拠点の即断即決による行動、半導体を中心とした課題部品確保の粘り強い交渉、各拠点に対する日本からの横断的な進捗管理、そして開発・事業部との連携という総合力で対応してきました。その結果、2022年7月には増産に舵を切ることができ、『1台でも多くの製品を、1本でも多くの消耗品を生産し、お客様に届ける』というシンプルな方針のもと、同年9月末には当初の累計生産計画を上回り、下期に向けて販社が抱えるバックオーダー(受注残)の解消にめどが立ってきたのです」と伊藤は言う。

グローバルのSCMシステムを強化しコロナ禍に対応

一方、完成品を顧客に届けるサプライチェーンはどうだったのか。

SCM部は日本と香港に司令塔を置き、全世界をカバーしている。複合機は本体、オプション単位で出荷され、各地の販売会社で顧客要望に応じた組み合わせ(セットアップ)後に顧客に届けられる。「サプライチェーンの高度なシステム化は2006年に始まりました。今では、世界各地の販売会社の入荷情報など、前日までのサプライチェーンの状況を、東京の私のPCですぐに確認できるようになっています」とSCM部部長の神田烈は話す。

SCM部部長 神田烈

「シミュレーション結果をいち早く共有しました」とSCM部部長の神田烈

「このシステム化によって、サプライチェーン上のさまざまなプレーヤーが1つのデータを見ながら議論することが可能になりました。意思決定の適正化と迅速化が実現し、コロナ禍における混乱にもスムーズに対処できました」という。

「当社SCMのコロナ禍対応のキーワードは、『デジタル』、『経営』、『人』の3つです。コニカミノルタでは、社長兼CEOの大幸利充以下、経営陣のSCMに対する理解が深く、経営層と業務部門で情報を共有し、サプライチェーン全体の効率化に向けて迅速な意思決定を図るS&OP(Sales and Operations Planning)を構築してきました。また、当社は20年以上かけて日本、海外のSCMスタッフの育成に努めており、業務のデジタル化に抵抗感がありません。加えて主要な販売会社では、当社が育成した人材がSCMのヘッドとして活躍しており、個々の市場でのサプライチェーンを統括しています」(神田)。

半導体不足と国際物流混乱にシミュレーションが威力を発揮

しかし、コロナ禍が始まると、サプライチェーンは大きな影響を受けた。2020年前半には世界各地のロックダウンや緊急事態宣言により、オフィス需要が低迷した。その後、オフィス需要が回復したものの、2021年に入ると半導体不足と国際物流の混乱が相次ぎ発生する(図2)。

「2021年5月に入ると、急激な半導体不足に直面しました。さらに同年夏からは国際物流の混乱も始まり、物を作れない、作っても届けられないという状況で、製品の在庫不足による販売会社での受注残が積み上がっていきました」(神田)

図2 複合機のバリューチェーンはコロナ禍以降、相次ぐ危機に見舞われた

図2 複合機のバリューチェーンはコロナ禍以降、相次ぐ危機に見舞われた

通常、アジアから米国西海岸までの輸送は船舶で15日から20日程度だが、70日を要したこともあったという。「世界各地の販売会社にいつどの製品が到着するか分からないという状況になりましたので、SCM基幹システム上で各地の在庫状況のシミュレーションを実行しました。それをベースに販売影響を確認し、関係者と対応策について議論しました。そうした議論を経て、販売商品の転換や航空輸送の利用など、事業プランの判断に活用しました」(神田)

SCM部による迅速なシミュレーションは経営層の的確な意志決定に貢献した。従来は、Excelで数時間かけて手作業で実行し、結果を必要な拠点にメールで送っていたが、新型コロナ感染拡大以降、SCM基幹システムを改良し、さまざまな条件を設定した高速シミュレーションが可能になった。現在では、本社と世界各地の主要販売会社が、システム上でリアルタイムに結果を共有できるようになっている。

「システム強化により、SCMデジタルトランスフォーメーション(DX)が実現し、経営層、各事業部門が速やかに意思決定できるようになりました」(神田)。

コニカミノルタ精神でオフィス事業の挽回目指す

このように部品調達・生産とSCMの両面で新たなBCP対応を進めたことにより、オフィス事業は一時の苦境を脱しつつある。生産量の回復、物流輸送期間の改善継続、受注残の減少などにより、2022年度第3四半期(2022年10~12月)決算では増収増益を実現、全社の業績を押し上げる結果となった。

2019年に始まった難局を振り返った伊藤は、「従来の経験が生かせない未曾有の状況で、半導体メーカーとのトップ交渉や、完成品台数を増やすために生産効率を度外視した組み立てライン運用など、平時なら非常識ともいえる判断をしてきました。その中で、現地スタッフへの権限委譲による現場の即断・実行を引き出すことができましたし、ベテランの知見やノウハウを可視化し、グローバルに共有することもできました。バリューネットワークを世界中に張り巡らして、データを蓄積することで、各拠点の現場力が一段上がったとも感じています」と胸を張る。

伊藤は、「難局に直面しても決して逃げない、諦めない、必ず挽回する――というコニカミノルタ精神で、この混乱を乗り切っていきたいと考えています」と締めくくった。

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