コニカミノルタが目指す「高収益企業への回帰」をけん引するインダストリー事業。ターゲットとする産業領域は、グローバル経済を引っ張る「ディスプレイ」「モビリティ」「半導体製造」の3つだ。提供価値の捉え方を従来の事業ごとの製品軸から、これら3つの産業軸、顧客軸に改め、コア技術の強みだけでなく、長年培ってきた顧客接点や信頼関係の深さも生かす。3つの領域で展開するコニカミノルタ流「新・攻略パターン」とは、どのようなものか――。
グローバル経済をけん引する産業領域へ
「高収益企業への回帰」――。2025年度までの3カ年を計画期間とする中期経営計画では、基本方針の1つにこの言葉を掲げた。事業の選択と集中を進め、その結果、新たに位置付けた強化事業に資源を再配分し、その収益力を高める。そこから「高収益企業への回帰」の第一歩を踏み出していく、という筋書きである。
会社の成長をけん引させる強化事業には、インダストリー事業の多くを位置付ける。具体的には、「センシング」「機能材料」「IJ(インクジェット)コンポーネント」「光学コンポーネント(産業用途)」の4事業だ。これらの事業を3つの産業領域で重点的に展開していくことで、それぞれの収益力を向上させていく。
ターゲット領域とした「ディスプレイ」「モビリティ」「半導体製造」は、いずれもグローバル経済を引っ張る重要な産業だ。従来、製品の軸で捉えてきた顧客への提供価値を、今後は産業の軸で捉え直す。そして、これら産業領域の攻略に新しいパターンを当てはめる。
ジャンルトップから規模を拡大してシェアを握る
インダストリー事業はこれまでも、営業利益率20%以上という高い収益力を維持してきた。強みは、創業150年の歴史の中で培ってきた精密技術や材料の合成、加工技術を基にしながら、お客様へ密着する現場力である。その強みを生かし、位相差フィルム、光源色計測、工業用途インクジェットヘッドといった分野ではジャンルトップの地位を築いてきた。
成功要因の1つは時代の流れを見極め、注力する領域を改めてきたこと。例えば、携帯電話向け光学レンズ技術はライセンスを他社に供与する一方で、スマートフォンやモバイルPCの革新を背景に、ディスプレイ検査に欠かせない光源色計測の技術を持つ欧米の会社を買収するなど、事業ポートフォリオマネジメントに取り組んできた。
もう1つ、レッドオーシャンを避けた中規模安定市場で高いシェアを維持してきた点も、成功要因に挙げられる。「底堅い需要と安定収益を見込める中規模の市場を選択し、そこで、技術力はもとより、お客様に対する多面的なサポートを行う現場力も発揮し、シェアを勝ち取ってきました」。常務執行役の亀澤仁司はここに、共通する攻略のかたちを見る。
それは3つのステップからなる。まず、要素技術が進化する、レッドオーシャンではない領域を選択する。次に、リソースを集中すべき顧客を定めて、そこで製品に磨きを掛け、信頼を得ることで、ジャンルトップの座を築く。最後は、顧客の幅を広げるか、あるいは、業界標準として認められることで、規模を拡大してシェアを握ることである。「強化事業に位置付けた『センシング』『機能材料』『IJコンポーネント』『光学コンポーネント』にはいずれも、この攻略のパターンが共通しています」(亀澤)。
従来の攻略パターンに「顧客との共創」を加える
「ディスプレイ」「モビリティ」「半導体製造」の3つの産業領域では、その攻略パターンを追い求めたうえで、さらに「顧客との共創」を打ち出す。これが新たな攻略のかたちである。
まず、TV、スマートフォン、モバイルPCなど様々な形態があるディスプレイの領域。製品軸で言えば、偏光板メーカーに納める機能性フィルムや製造装置メーカーに納めるインクジェットヘッド、ディスプレイパネルメーカーやブランドオーナーなどが設計・開発段階と検査段階で用いる光源色計測装置が、この領域を担う。これらの製品はいずれも高い技術力を生かし、それぞれが特定の領域でトップシェア、すなわちジャンルトップの座を占める。ここでは、顧客との共創を起点に持続的なビジネスモデルが構築されている。例えば機能性フィルムでは、顧客である偏光板メーカーはもとより、サプライチェーンでは下流に位置するディスプレイパネルメーカーとも連携し、新たなニーズを掘り起こして偏光板メーカーに提案する。
この「顧客との共創」を一段と強化する構えだ。光源色計測装置では、年平均30~40%もの成長が見込めるAR(拡張現実)/VR(仮想現実)市場に対し、ブランドオーナーに密着してそのニーズをいち早く察知することで、ブランドオーナーの意向を踏まえた検査が可能な装置を先取りして開発する。それをディスプレイパネルメーカーやEMS(製造受託企業)などサプライチェーン全体に展開することで、売り上げ拡大を図る。
機能性フィルムでは、材料処方技術を生かし、スマートフォン、モバイルPCといった中小型市場での新規開拓を狙う。そこで取り組むのも、「顧客との共創」。執行役員 機能材料事業部長の大久保賢一が語る戦略は「ブランドオーナーが実現したいことを汲み取り、当社のお客様である偏光板メーカーが気付いていない設計や商品開発につなげていきます」と明快だ。
顧客と共に見いだす新たな価値
次にモビリティ。製品軸で言えば、自動車外観検査装置が、この領域を担う。この装置は、部品間の隙間・段差や塗装の欠陥を計測し、人手に頼ってきた外観検査の自動化を図るもの。2015年、新事業としてスモールスタートを切り、2019年、欧州のリーディングカンパニーEines(エイネス)社を買収し、事業拡大の加速化に踏み切った。この市場はいま、伸び盛り。2025年時点で約150億円規模に成長し、年平均成長率は15%以上と見込まれる。執行役員センシング事業本部長の三上健太郎は「約50%のシェアを握る欧州でさらにシェアを拡大していくと同時に、中国、北米、アジアでも、各地の販売ネットワークを活用し、市場を切り開いていきます」と意欲的だ。
「顧客との共創」を通じて生み出そうとするのは、DX(デジタルトランスフォーメーション)化による付加価値の向上という。顧客とともに、蓄積していくデータを基に欠陥の自動修繕やその分析を踏まえた工程改善にも乗り出す。「ゆくゆくは世界中で生産される自動車を検査することになります。そこで得られるデータに価値を見いだし、事業を広げていきます。自動車の外観を、ただ検査するだけでは決して終わりません」(亀澤氏)。
最後の半導体製造を担うのは、製品軸で言えば、光学コンポーネントである。祖業である写真事業で培った光学技術を基に開発・製造した超高精度の研磨レンズを、半導体製造装置向けに提供している。この半導体製造装置用を光学コンポーネント事業の一つの柱とすることを目指し、事業部内にはすでに専用部署を立ち上げ済みだ。2030年には、売上高で年平均20%以上の成長を目指す。
成長シナリオをどう描くのか。扱う光の波長領域が450nm前後の「ミドル領域」でシェア拡大を見込む一方、同200nm前後の「DUV/VUV領域」への展開に挑む。下図は波長別に当社製品をマッピングしたものだ。左にいくほど短い波長領域になる。一般に半導体の微細化が進むにつれ波長が短くなり、それに伴い、レンズに求められる面精度(レンズ表面の平坦度)が上がっていく。執行役員光学コンポーネント事業部長の野村由之氏は「ミドル領域では、EV(電気自動車)需要の増加で最終製品となるパワー半導体向け市場拡大が見込まれる一方、主要なサプライヤーは、半導体の微細化に伴い、波長のより短い領域にシフトすることから、品質安定性・カスタマイズ力・供給安定性の低下が課題になっています。この需給バランスの“揺らぎ”を追い風にシェアを拡大していきます」と、将来をにらむ。
この領域でも提供価値の創造に欠かせないのは、「顧客との共創」と位置付ける。顧客である半導体製造装置メーカーとレンズ原料の供給元であるガラスメーカーとはもともと10年以上の連携関係を築く。「この連携関係を基にお客様のニーズを丁寧に汲み取ったうえで、精密加工技術の強みを生かしながら、高付加価値の製品開発に結び付けていきます」(野村氏)。
産業単位での事業開発へ、フロント人財組織
3つのターゲット領域で共通するのは、冒頭でも触れたように、顧客への提供価値を産業の軸で捉え直すという点だ。2023年4月には、そうした産業単位での事業開発を進めていく狙いから、バリューチェーン全体を見渡しながらマーケットマネジメントや応用開発にあたるフロント人財組織を新設した。
亀澤氏はその意義をこう明かす。「製品別・事業別の体制では市場や社会の急速な変化に対応できません。それに、顧客接点の多さや信頼関係の深さという当社の強みも生かせない。この組織を新設したことで、ブランドオーナーをはじめ、バリューチェーンを構成するどの段階のお客様にも、事業横断で声を掛けられるようになります」。
産業を軸とした横断的な事業開発。それが、中長期の成長には欠かせない。「高収益企業への回帰」は、強化事業のそうした展開から始まるのである。
*Imaging Insightのこちらの記事も併せてご覧ください。
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