製造業のエネルギー調達が多様化している。背景となっているのは、世界で企業による脱炭素への取り組みや電力の自由化が進んでいる現状だ。コニカミノルタは2050年までにカーボンマイナス達成を目標に掲げており、自社の事業活動で使用する電力の100%を再生可能エネルギーにするとの長期目標を定めている。再生可能エネルギー電力への転換を急ぐ中、2025年、新たな再エネ調達スキームによる「バーチャルPPA(パワー・パーチェス・アグリーメント:電力購入契約)」を当社で初めて導入し、目標達成への取り組みを加速する。新たなスキーム構築の舞台裏には、他企業とのパートナーシップを土台に、課題解決に取り組んできた道のりがある。
機能性フィルムの生産、再生可能なエネルギーの調達が必須課題
スマートフォンやパソコン、テレビなどのディスプレイに使われ、光の調整や画面の保護に使われている機能性フィルム。テレビなどを含む大型ディスプレイ向けの機能性フィルム市場において、コニカミノルタの位相差フィルムは世界トップシェアを獲得している。私たちの生活、ひいてはディスプレイ産業に欠かせないこのフィルムの生産、販売をコニカミノルタで担っているのが機能材料事業部である。
機能性フィルムの生産を担う工場はとりわけ電力やガスを燃料として大量に消費するため、エネルギー調達の課題に深く向き合ってきた。機能材料事業部 事業統括部 調達部 戦略調達グループの岡本輝美は同部門でエネルギー調達を担い、コストや環境対応に向けて試行錯誤を重ねてきた。
「いかに安く、いかに安定したエネルギーを調達できるかは重要な課題です。機能性フィルムの顧客企業も環境対策に熱心に取り組んでいます。そこで機能材料事業部では省エネはどうするか、CO2をできるだけ排出しない燃料に転換できるか、再生可能エネルギーをどう導入していくかといった課題に取り組んできました」
そうした中で2025年、当社では初となる「バーチャルPPA」の導入に至った。この契約は、遠隔地の発電事業者が発電した再生可能エネルギーを活用するが、直接の電力の取引はなく環境価値のみを購入するといったものだ。ただし一般にいわれるバーチャルPPAと一線を画すのは、長期にわたって環境価値価格を固定とする新しいスキームである点であり、経理上の煩雑さや環境価値の変動リスクといった課題にとらわれず、コニカミノルタの国内各サイトでの再エネ調達が容易となる。環境価値価格を固定したこのバーチャルPPAのスキーム構築は岡本が重ねてきた試行錯誤の結果であり、その道のりを振り返ってみたい。
オンサイトPPAで出来ることはすべて挑戦
再エネ導入にあたって岡本が最初に検討したのは、比較的安価に再生可能エネルギーの電力を購入できる「オンサイトPPA」だった。オンサイトPPAとは、敷地内に発電事業者の太陽光発電設備を設置して電力を購入し、自社で消費する仕組みである。しかし、導入にあたり最初の壁に直面した。
「既存の建物に他社の発電設備を入れて電気を購入する仕組みは、当社国内拠点では初めてだったため、慎重な反応が多かったのです。契約期間も20年間と長く、『責任が持てない』という意見もありました」
こうした逆風にもかかわらず、岡本は設計図面を準備しながら交渉を重ね、2023年から神戸や甲府など、3つの工場で太陽光発電を設置してオンサイトPPAを導入していった。しかし、工場の屋根に太陽光パネルを設置するにあたってある程度の強度が必要となり、太陽光パネルを設置できない工場もあった。
オンサイトPPAで出来ることはすべて挑戦した岡本は、再生可能エネルギーの電力や見積もりについて7~8社と協議を重ねて、次にできることを検討していった。自社の敷地内に太陽光発電設備を置くオンサイトPPAに対し、再生可能エネルギーの電力を調達するほかの手段には、「フィジカルPPA」がある。
フィジカルPPAは自社の敷地の外である遠隔地の発電所から実際に電力の供給を受け、電力を消費するとともに、環境価値を示す「非化石証書」を同時に購入する仕組みだ。購入した電力に対して、どの再生可能エネルギーの発電所から供給されているかを明確に特定できるため、トレーサビリティ(追跡可能性)の高いクリーンな電力を購入することができる。しかし、ここで足かせとなったのが、コストが高いことに加え、太陽光発電のため工場稼働に必要な夜間の電力が賄えない点だった。
価格変動リスクなし、どのサイトでも使える利点
これに対して、東急不動産100%子会社で再生可能エネルギー事業を手がける株式会社リエネ(以下、リエネ)との協議でたどり着いたのが、「バーチャルPPA」だった。西欧諸国で導入が進んでおり、日本ではまだ導入例が少ない仕組みだ。電力の購入は契約せず、環境価値である「非化石証書」のみを購入する契約である。
「非化石証書は電力の市場価格に応じて、価格が変動するリスクがありました。ただ環境価値のみを購入するので、コニカミノルタの工場どこでも使うことができる利点があります。リエネと度重なる交渉を進める中で出てきた提案が、変動価格ではなく、固定価格で非化石証書を購入する契約だったのです」
2025年2月にリエネとコニカミノルタが締結したバーチャルPPAは、東急不動産が開発、保有する物流施設の屋根上にある太陽光発電設備で発電した再生可能エネルギー由来の電力から、リエネが環境価値(非化石証書)を切り出し、20年間固定価格で購入するという仕組みだ。
一般的なバーチャルPPAでは、再生可能エネルギーの電力と環境価値を合算した固定価格と、電力の市場での売却価格の差額の決済に煩雑な手続きを有するが、今回の契約のように、リエネは「FIP(フィードインプレミアム:固定価格買取)制度」を活用することで、太陽光発電の売電収入にプレミアム(補助額)を上乗せされるため、発電事業者にとっては収入の安定化につながり、価格設計の柔軟な取引を可能にできる。
コニカミノルタの研究開発拠点である、東京サイト八王子、東京サイト日野、生産拠点である甲府サイトの電力使用量に対して、関西電力の再エネECOプランに加え、リエネと締結しているバーチャルPPAを2025年4月より適用したことで、同年8月に再生可能エネルギー由来の電力比率100%を達成した。同様に、生産拠点である神戸第2サイトでも、再生可能エネルギーへの転換を開始している。
「当社とリエネとのバーチャルPPA契約について、共同プレスリリースを発表したところ、数多くの企業からの反響がありました。実際にリエネには、企業や自治体からも問い合わせが相次いでいると聞いており、協力関係が相互に利するかたちになりました」
他社との協業で次の手も可能性探る
エネルギー調達で次世代の分野として、岡本が注目するのがコージェネレーション(熱電併給)である。神戸の工場では、この燃料として都市ガスを大量に使用している。
「2030年までの環境ビジョンの目標として、スコープ1(自社が直接排出する温室効果ガス)とスコープ2(自社が間接排出する温室効果ガス)を51パーセント削減しなければなりませんが、電力は再生可能エネルギーに転換できても、ガスはできません。ガスを減らすか、燃料転換するためには、多額の投資が必要になります」
ガスの燃料転換は夢物語としながらも、岡本は事業者との情報交換を進めながら、さらなる温室効果ガス削減の実現可能性を探っている。
「前例のない、環境に配慮したエネルギー調達の取り組みを通して、知識や人脈が広がったのを感じます。会社への貢献はもちろん、パートナー企業である他社への貢献、地球環境への貢献というふうに、多方面での貢献ができるという面でワクワクしています」
エネルギー調達をめぐる岡本の挑戦はこれからも続く。
*Imaging Insightのこちらの記事も併せてご覧ください。

