コニカミノルタは2023~25年度の中期経営計画が最終年度を迎え、「事業の選択と集中」から「成長基盤の確立」のフェーズに移る。そこで求められるのが、中長期の利益成長をけん引する「成長の芽」の育成だ。柱となるのは、再生プラスチック材料、ペロブスカイト太陽電池のバリアフィルム、バイオものづくりのプロセスモニタリング、という3つの技術である。既存事業で培ってきたコア技術にAIを組み合わせ、次世代のものづくりを支える狙いだ。
高成長が期待される領域にコア技術×AIで挑む
再生プラスチック、ペロブスカイト太陽電池、バイオものづくり――。いずれも、市場の急激な成長が見込まれる領域だ。先行する再生プラスチック材料は、2025年度の世界の市場規模が電子機器向けだけで500~1000億円。30年度までに年平均9%で成長する見通しだ。ペロブスカイト太陽電池用バリアフィルムは30年度に300~500億円、バイオものづくりのプロセスモニタリングは同500~1000億円を見込む。これら3つのテーマを「成長の芽」と位置付け、中長期の利益成長をけん引する存在に育て上げる。
「成長の芽」の技術が期待される背景には、資源の有効活用や気候変動への対応が求められる時代の流れがある。技術の適用先となる再生プラスチックやバイオものづくりは、石油由来の原料を廃材・微生物由来のものに置き換えること、ペロブスカイト太陽電池は太陽光によって発電を賄うことで、石炭・石油・天然ガスなどの資源消費やCO₂排出の削減が期待できる。これからの時代に必要とされる領域に対して当社が培ってきた技術を用いて部材の提供や生産の効率化に取り組む。技術確立の確度が高い領域を狙うのが特徴だ。既存事業の技術にAIを組み合わせることで技術上の課題を乗り越え、早期に展開していく構えだ。

廃材由来の高機能再生プラ材料を他社製品にも
3つの「成長の芽」の中で社外への展開が進んでいるのは、自社複合機の外装・内装部品に10年以上の採用実績がある再生プラスチック材料だ。環境規制の強化が見込まれる中、石油から製造するバージン材ではなく再生プラスチックを製品に利用する製造業のニーズは確実に高まっている。そのため廃材由来原料をより多く含むPCR(post consumer recycle)比率の高いものが強く求められるようになってきた。
コニカミノルタが展開する再生プラスチック事業を支えるコア技術の1つが「アップグレードリサイクル」である。廃材由来の再生プラスチックにトナー開発で培ったポリマーアロイ技術をベースに難燃性や高い耐久性を持たせるもので、再生プラスチックを高度な性能が要求される複合機の外装部品や内装部品に適用するために技術を構築した。そこで築き上げてきたノウハウを他社製品向けの再生プラスチック製造に生かしている。
24年5月には、NECプラットフォームズとの共同開発で使用済みガロンボトル由来の再生プラスチック材料を生み出し、NECプラットフォームズ製の家庭用Wi-Fiルーターの外装部品向けに展開し始めた。さらに同年9月には、使用済みエンターテインメント機由来の再生プラスチック材料を、サトーが製造・販売するラベルプリンターの筐体部品向けに提供開始している。
コア技術のもう1つは、インダストリー事業で展開しているセンシング技術とAIを組み合わせた多品種混在材料の「高精度分析」である。廃材由来の再生プラは、石油由来のバージン材に比べ品質のバラツキが大きくなりがちで、安定化を図ろうとすると価格が高くなるという課題を抱えている。そこで、センシング技術とAIを組み合わせて材料の成分を高精度で識別し、品質の安定化と原料コストの低減を狙う。
再生プラスチック材料の製造に必要な廃材の調達やそれを基にした材料の製造は、パートナー企業とともに進める計画だ。25年度には量産設備による事業検証を実施、27年度の製品化を目指す。

フィルム開発でペロブスカイトの耐久性と低価格化を実現
続いてはフィルムの材料開発・生産技術を生かすペロブスカイト太陽電池用のバリアフィルムである。ペロブスカイト太陽電池は国内で誕生した技術で、薄くて曲がる太陽電池として知られる。設置性が良く光透過性もあって窓に貼ることも可能なうえに、将来的に高い発電効率が期待できる。しかし、水に弱いなど耐久性に難点がある。バリアフィルムは外部環境からペロブスカイト太陽電池のセルを保護する。柔軟性や発電効率を確保しながら、水分の浸透を許さないバリア性能が求められる。
しかし現時点で提供されているバリアフィルムの性能は不十分で、従来のシリコン型太陽電池の寿命が20~30年程度とされるのに対し、現在のペロブスカイト型は5~10年程度にすぎない。バリアフィルムの性能向上や低コスト化を達成できれば、市場規模は一段と膨らむと期待される。

コニカミノルタは、この難題にもコア技術とAIの組み合わせで挑む。バリアフィルム開発に生かすのは、有機EL照明で培った技術である。すでに水蒸気透過度が極めて低く、高耐久な材料の設計技術を確立済み。さらに、AIを用いて材料開発の最適化を図るマテリアルズ・インフォマティクス(MI)を組み合わせ、確立済みの技術をペロブスカイト太陽電池のバリアフィルムに適用する技術検証を進めていく。25年度内には検証を終え、早ければ26年度のサンプル出荷を目指す。
量産段階では、ペロブスカイト太陽電池の寿命をシリコン型と同程度の20年程度まで延ばせるバリアフィルムの提供を目指す。一方、機能材料事業の主力製品である各種フィルムの製造技術に、AIを用いて製造工程の最適化を図るプロセス・インフォマティクス(PI)を組み合わせ、製造コストを抑える。
ペロブスカイト太陽電池関連ではさらに、検査デバイスの提供にも乗り出す。再生プラ材料製造でも紹介したHSI(※)技術とAIを組み合わせた検査デバイスを提供し、中核部分を構成するペロブスカイト層の塗布ムラやバリアフィルムの膜厚などを計測、発電効率の向上や製造コストの低減につなげる。
※Hyperspectral imaging(ハイパースペクトルイメージング)。広範囲の波長を多数に分割して撮像する方法で、人の目やRGBカメラでは判別が不可能な性質を識別できる。

バイオものづくりの“量産の壁”を突破する
最後は、ペロブスカイト太陽電池バリアフィルムを上回る市場規模が見込まれるバイオものづくりを支えるプロセスモニタリング技術だ。
バイオものづくりとは微生物の能力を活用して高機能素材やバイオ燃料などを生産する領域だ。資源の消費やCO₂排出の削減につながる持続可能なものづくりだが、条件の微妙な違いが、微生物の挙動に影響して生産性を大きく左右する。そのため、量産時に歩留まりや品質を維持するのが難しいという課題がある。
コニカミノルタでは、バイオものづくりにおける課題やニーズに応えるバイオ生産マネジメントシステムの提供を目指す。HSIをはじめとする計測技術とAIを組み合わせてシステムを構築、培養タンク内での生産状況の見える化などに役立てる。
23年6月には第一歩として、国立研究開発法人産業技術総合研究所とともに、「コニカミノルター産総研 バイオプロセス技術連携研究ラボ」を設立。まずはHSIを用いて高生産株を早期に選別できるシステムを開発した。
一方、HSI技術をはじめとする複数のセンシングデバイスで得たデータをAIで解析し、培養タンク内の可視化も実現する。さらに、その結果を基にプロセス制御を行い、タンク内での培養の安定性と再現性を高めることで生産効率を上げるシステムの開発を目指す。バイオ生産マネジメントシステム全体については技術検証を進めている。

すべてに共通するHSI技術が相乗効果を生み出す
3つの「成長の芽」はそれぞれ異なる時間軸で検討を進めている。再生プラスチック材料は、他社製品向けの提供を始めており、ペロブスカイト太陽電池用バリアフィルムは、有機ELでの実績から、早期の製品化が見込める段階だ。バイオものづくりのプロセスモニタリングは少し時間を要するが、技術検証が進むことで提供先も多く見込める。いずれも中長期の利益成長への貢献が期待される。
また、3つのテーマでは、いずれも高精度な判別・検査を可能にするHSI技術を活用できる可能性がある点は注目に値する。3つの領域を横串のように貫くことから、先行するテーマで得られた知見が他のテーマに相乗効果をもたらすことも期待できる。中長期の利益成長をけん引する担い手として期待したい。
*Imaging Insightのこちらの記事も併せてご覧ください。