2024年12月中旬の5日間、コニカミノルタの大阪・高槻サイトで、プロフェッショナルプリント事業本部ビジネス開発グループと人事部の共同開催による新卒者向けインターンシップ、5DAYS「顧客先にて事業提案あり!めざせ!将来の社会の成長を担うビジネスデザイナー」(以下、5DAYS)が行われた。3年目となったこの試みは、デジタル印刷における需要創出活動とインターンシップを連携させた事業観点でも採用施策としても珍しいユニークな取り組みだ。学生が顧客候補に対してインタビューや提案を行い、新規事業における顧客開拓の一翼を担う。ビジネスを前進させると同時に、学生とコニカミノルタの両者にとって実りある成果を目指す。顧客、学生、若手社員それぞれの声を現場で聞いた。
学生の純粋な提案が気づきをもたらす
5DAYSの最終日、全国から集まった大学3年生たち8人と社員のサポートメンバーは、3チームに分かれてそれぞれの顧客候補を訪問。Imaging Insight取材班は、京都のタキイ種苗株式会社に同行した。タキイ種苗は農園芸用種苗・資材の生産、販売を行う大手企業。同社通販部の中川泰宏部長は、今回コニカミノルタのインターンシップに協力した背景をこう語る。
「学生の柔軟な発想から生まれた提案を聞いてみたかったというのもありますし、日本ではこうした実践型インターンシップの事例が少ないので興味がありました。それが、今回協力させていただいた理由です」
この日は2人の学生が、2日目に実施されたインタビューに基づき、ワークショップで練り上げたプレゼンを行った。
まず、「園芸を始めても、飽きや失敗が原因で、3年以内に離脱する人が多い」ことが課題であるとした上で、「正しい育て方がわからない」「自分だけが失敗したのではないかという挫折感」などが継続の壁になっていると分析。その上で、「園芸が高齢者の生きがいになる」というゴールを達成するために、「3年以内にやめる人を減らし、園芸が楽しく長く続けられるようにする」ための提案を行った。
学生たちは提案先である中川部長が「幸せになった姿」を思い浮かべ、そうなるためには自分たちがどうすれば良いのかを考え抜いた。その結果、タキイ種苗による手厚いサポートを「利用することなく挫折してしまう人」がいることへの悔しさを晴らすことが、そこに繋がるはずだという発想に至った。まさに共感を起点としたコンセプトだ。
種苗の通販を利用する顧客の平均年齢が60代であることを考慮して、「紙」を活用し、デジタル印刷でパーソナライズされたチラシを作成。顧客が苗や種を購入した際、このチラシを商品に同梱する。そのチラシには、顧客が購入した品種を育てるコツやポイントの記載に加え、育てた野菜を友人にプレゼントしている様子の写真も載せて、モチベーションを刺激。顧客の購入履歴からおすすめ商品をリストアップし、QRコードでWebサイトに誘導してデータ分析を行うことも提案した。

興味から協力してくれた提案先も、プレゼンが進むにつれ表情が真剣なものに変わっていき、次々と質問を投げかけてきた。中には厳しい指摘もあったが、学生側も慌てず冷静な回答で受け応える。
AccurioDXのメンバーによる親身のサポートのもと、学生たちによる準備の入念さが垣間見えた。
最後に、中川部長から提案に対する講評があった。
「新しい販促手法が登場しても、我々は過去の経験や業界の常識に囚われて、『無理だ』と切り捨ててしまいがちです。今回、学生さんが純粋な気持ちで考えたアイデアを聞く中で、新鮮さを感じると同時に、反省もさせられました。冒頭で『園芸が高齢者の生きがいになる』というお話がありました。最近はそこまで大きな視点に立ち返って販促を考えることがなく、その点についても再考を迫られました」
「実は、今回ご提案いただいた施策は、以前オンデマンド印刷が流行ったときに社内で検討し、やらないと決定を下したものでした。しかし、それを今、あらためて学生さんからご提案いただいた意味は、もう一度考え直す必要があるということなのかもしれないと思いました。それは、高齢者の生きがいとしての園芸、という社会的意義を改めて思い起こさせてくれたからだと感じます。テストできる環境があるのであれば、一度トライしてみたいと思います」
自分たちの思いが届いたそのとき、学生たちの表情がほころんだ。
本物の共創体験がもたらした言葉の力と深み
世の中にはロールプレイで提案活動を模擬的に経験するインターンシップは珍しくない。ところが、実在する顧客、それも既存の取引先ではなく顧客候補を相手に“本気の提案”を体験できるプログラムは異例中の異例ともいえる。社員の本気度を感じ取った全国の学生から応募が集中する人気のインターンシップ、と人事部の採用担当者は胸を張る。デジタル印刷活用の共創プラットフォームAccurioDXの利用推進に取り組み、5DAYSの運営を引っ張る宮木俊明は主旨をこう説明する。
「なぜ既存顧客ではないお客さまにアプローチするのか。それは、既存顧客にインターンシップとしてお付き合いいただくのでは事業としての顧客開拓にはつながらないからです。一方、新規の顧客候補への提案であれば、学生と共に我々も新たなチャレンジができる。業務として行う以上、参加するAccurioDXチームメンバーの成果や成長の観点も欠かせません。加えて、ありがたいことに『自社サービスに対して学生からの新鮮な意見を聞きたい』などと、学生がいるからこその対応をしてくださる協力企業と毎年ご縁をいただいております。デジタル印刷の新たな需要創出活動とインターンシップを連携させ相乗効果を生んでいるのが、このプログラム。つまりこのインターンシップの狙いとは“学生の力も活用しての顧客開拓”というわけです」
顧客訪問を終えた学生たちは、大阪・高槻サイトで宮木とサポートメンバーに結果を報告。チーム毎の最終発表と講評の後に、全員の前で、一人ひとりが5日間を振り返り、ワークで得た学びや反省、心境の変化や成長実感を率直に語った。
「5日間、“お客様になりきる”ことを実践して、これが本当の共創だと実感しました。提案では自分がやりたいことをもっと明確にしたかったし、お客様の想像を超えた提案をしたかった。その意味では満足していないので、このインターンをもっと続けていたいというのが正直な気持ちです」と、ある学生は語る。

続いて、その場にいた社員全員が、学生に対して一言ずつ言葉を贈った。
「僕は二年前にこのインターンシップに参加しました。その後、同期の友人たちと話して感じたのは、言葉の深さの違いです。このインターンを経験して、皆さんは本物の共感力を身につけた。それが皆さんの武器になっていくと思うので、その強みを生かしてこれからも頑張ってほしい」(入社一年目の社員)
「タキイ種苗の中川さんは、最後に『AccurioDXのテストをしてみたい』と言ってくださいました。それは、皆さんが自分の立場になりきって考えてくれたことを、大変喜ばれたからだと思います。今日、皆さんは中川さんの心を動かした。そのことに、僕はとても感動しています」(AccurioDXチームメンバー)
そこに居合せた全員が胸襟を開いて思いを語り、学生や社員が感極まって涙ぐむ場面も見られた。こうして2024年の5DAYSは、冷めやらぬ熱気と余韻の中で幕を閉じた。
5DAYSを経験して「人生の軸」が言語化できた
AccurioDXの5DAYSがスタートしたのは、コロナ禍で様々なコミュニケーションに困難があった2022年。その中でのインターン参加が2人の採用に結びつき、採用面でも成果を上げつつある。その第1号として2024年4月に入社した祖慶菜々美。志望どおりプロフェッショナルプリント事業本部ビジネス開発グループに配属された。彼女は5DAYSで何を経験し、何を学んだのか。
その年の5DAYSで、祖慶のチームは大手スポーツ自転車部品メーカーを担当。「最近は自転車に乗らない若い人が増えているので、若い世代の自転車人口を増やしたい」という話から、「デジタル印刷でレンタサイクルのチラシを作り、ホテルに置いて自転車の利用を増やす」という提案のストーリーを練り上げた。ところが、「普段から自転車に乗らない人が、そのチラシを見て本当にレンタサイクルすると思う?」とアドバイザー役の社員から質問を投げかけられた。
「お客さまになりきって考えたつもりで、自分でも利用しないようなものを提案しようとしていた。自分が面白いと思ったアイデアは、本当にお客さまが求めているものなのか。そう自分自身に問いかけることが重要だと気づかされました」(祖慶)

最終日のプレゼンでは、提案先から「こういう発想はなかったな」と前向きな言葉を引き出すことができた。オフィスに戻ってからのワークでは、自分自身が真に求めているものを知り、心身ともに幸せな生き方や働き方を実現するヒントを得た。
「自分には『固定観念に縛られず、子どものように自由な感性を持ち続けたい』『同じ時間をかけるなら、本当にいいものを作りたい』という思いがあることに気づかされました。5DAYSを経験したことで、人生の軸のようなものが言語化できた。それが、このインターンシップで得た最大の収穫でした」と祖慶は振り返る。
顧客への真の寄り添い力が価値創造カルチャー変革に
AccurioDXチームを率いる宮木は、「もちろん、インターンに参加した学生全員が採用につながるわけではないし、コニカミノルタに入社してくれたとしても自部門に配属になるとは限りません。けれども、5日間の苦楽を共にしたことで、中長期的にビジョンや人の可能性に共感できる仲間が、社内にも社外にも増えてきているというイメージです」と言う。
学生に顧客候補への共感を起点とした提案を経験してもらい、デジタル印刷の需要創出と人材採用、将来のパートナー作りにつなげていく。インターンシップのパラダイムシフトともいえるこの試みは、今、社内にも静かに広がりを見せつつある。他部署のメンバーがAccurioDXチームのビジネス開発インターンに触発され、自部門でもインターンシップの開催に踏み切るケースが出始めているのだ。
「この取り組みの意義を理解していただける方が増え、社内外に仲間が増えていけば、AccurioDXによるコミュニケーション変革と同時に、顧客への真の寄り添い力を軸とした価値創造カルチャーへの変革が実現できる。そんな手応えを感じています」と宮木は話す。学生と若手社員の人生観を変える、濃密な5日間。その体験が社内外にどう波及し、どのような変革をもたらすのか。今後の展開に注目していきたい。

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