コニカミノルタが取り組む5つのマテリアリティ(重要課題)の1つ、「健康で質の高い生活の実現」に貢献するヘルスケア事業。その中でも医療現場から高い評価を得つつあるのが「X線動態解析技術」。最も基本的な画像診断の手段であるX線撮影に “動き”の情報を付加するものだ。コニカミノルタはこの技術を普及させ、国内外の医療が抱える様々な課題を解決しようと動く。その第一歩として注力するのが臨床における有用性の証明、すなわちエビデンスの構築だ。その取り組みや成果、今後の展望について、ヘルスケア事業本部 モダリティ事業部モダリティ事業企画部X線事業企画グループ リーダーの中村一起に聞いた。

目次

“動き”の情報を加えたX線動態画像、「絶対に普及させるべき」

「絶対に普及させていかなくてはならない」「診療が劇的に変わる可能性がある」――。

コニカミノルタのヘルスケア事業の中で、その有用性の高さから、医療従事者の間でこんな評価を得る技術がある。「X線動態解析」がそれだ。100年以上にわたって医療で利用されている一般的なX線撮影で得られるのは静止画だが、これに“動き”の情報を付加する技術である。

X線動態解析の仕組み自体はシンプルだ。連続パルス照射が可能なX線撮影装置を使い、1秒間にX線パルスを約15回照射、十数秒間にわたってコマ撮りした画像を連続表示するものである(図1)。ポイントは、こうして得た動画像にコニカミノルタ独自の画像処理を施し、情報量を格段に増やしたことにある。

九州大学の山崎誘三氏

図1 X線動態解析システムの例。x線の短いパルスを照射し、画像処理により、呼吸や血流に伴う臓器の動きを可視化できる。

例えば、胸部の診断時、肺に重なって写る鎖骨や肋骨を減弱して、肺の中の病変を見つけやすくする画像モードを用意した。逆に構造を強調する処理により、臓器の状態を見やすくすることもできる。また、横隔膜の動きを定量化してグラフ化したり、呼吸の状態や肺血流の状態を可視化することが可能だ。従来のX線撮影では「形」の情報のみだったが、X線動態解析では「機能」の情報も得られる(図2)。

静止画

図2 動画像観察(写真右)により、生体/病態などの情報量の増加が期待でき、一般単純X線撮影領域における診断レベル向上に貢献する

コニカミノルタは2018年からX線動態解析機能を搭載した製品を販売している。2022年には、集中治療室(ICU)や病棟、救急救命室(ER)などのベッドサイドでのX線動態撮影を可能にする回診用X線撮影装置を発売した。

低コスト・低侵襲・低被ばくで既存の検査を代替できる

ヘルスケア事業本部モダリティ事業統括部モダリティ事業企画部X線事業企画グループ グループリーダーの中村一起は「発売当初から、単純X線撮影で動きが見えることに驚き、『既存の高コストな検査を代替できる可能性があるのでは』と期待を示す先生方が数多くおられます」と振り返る。

ヘルスケア事業本部モダリティ事業統括部モダリティ事業企画部X線事業企画グループ グループリーダー 中村一起

「最も重要な取り組みはエビデンスづくりです」と語る中村

例えば、肺の血流や換気を評価する標準的な手段としては「シンチグラフィー」や「造影CT」などの検査がある。しかし、これらの検査はコストが高い上に、X線被ばく量が多かったり、放射性同位元素や造影剤などの薬剤を投与しなくてはならないなどアクセシビリティが悪い。

一方、X線動態解析は手軽かつ低コストに検査ができるほか、CTやシンチグラフィーなどと比べて被ばく量が少なく、侵襲性(心身への負担や苦痛)が低い。また、CTやシンチグラフィーなどの高度な画像診断装置は限られた医療機関にしか導入されていないが、X線動態解析を可能とする一般X線撮影装置は、町のかかりつけ医といった診療所も含め、多くの医療機関に普及しているものなので、将来的には医療コストを抑え、診療の生産性を高めると期待される。

「X線画像診断のパラダイムシフト」

中村は、「X線動態解析のさらなる普及には、臨床的価値を認知していただくことが大切だと考えています」と言う。「そのために最も重要な取り組みは、臨床現場でX線動態解析が有用であることを示すエビデンスづくりです」と説明する。このため、X線動態解析の有用性、可能性に共感してくれる世界のトップ医療機関と価値共創を進めている。

今年4月に横浜で開催された日本医学放射線学会総会では、同学会とコニカミノルタが共催したセミナーで、X線動態解析を診療で活用している医師が登壇し、臨床現場における使用感や有用性を報告した。

最初に講演した九州大学大学院医学研究院臨床放射線科学分野の山崎誘三氏は、X線動態解析の利点として、(1)禁忌事項が少なく、簡便な検査で、すぐに結果が得られる、(2)造影剤が不要など、侵襲がほとんどないので繰り返しの検査が可能、(3)立った状態など、体位をいろいろ変えて撮れる、などを挙げ、「単純X線診断にパラダイムシフトを起こす技術だ」と評価した。

山崎氏らの研究チームは、国内の患者数がわずか5000人という希少疾患の1つ「CTEPH(慢性血栓塞栓性肺高血圧症)」の診断におけるX線動態解析の有用性を確かめる臨床試験を実施した。その結果、第一選択の診断法となっている肺血流/肺換気シンチグラフィーとほぼ同等の診断精度が得られ、X線動態解析が、CTEPHの新たな診断手法になる可能性を世界で初めて証明した。この研究結果は放射線医学分野で世界的に権威がある北米放射線学会の学術誌に掲載されたほか、同学会での山崎氏の発表も大きな反響を呼んだ。山崎氏は「将来的には、被曝リスクの関係からCTなどが利用できない妊娠女性の肺塞栓症疑いや、現場に持ち込める医療機器が限られる災害医療などにも応用可能でしょう。今後、臨床応用が広がっていくはずです」と期待を込める。

九州大学の山崎誘三氏

「今後、臨床応用が広がる」と期待する九州大学の山崎誘三氏

救急・集中治療中の患者でも詳しい検査ができる

続いて講演した聖マリアンナ医科大学救急医学 救急救命センター救急放射線部門の昆祐理氏は、X線動態撮影が可能な回診用X線撮影装置を救急診療に応用しており、診療経験をもとにその利点を報告した。

救急医療の現場では、呼吸困難や意識低下などにより、通常のX線撮影に必要な数秒間の息止めが困難な患者が多い。とくに、人工呼吸器を装着している患者では、呼吸を止める場合、筋弛緩薬の投与が必要な場合があり、患者にとっても医療者にとっても負担が大きい。X線動態解析はこうした患者でも撮影が可能だ。

ベッドサイドでX線動態撮影を実施できるメリットはほかにもある。救急・集中治療中の患者は、複数のモニター、点滴、人工呼吸器、さらには体外式膜型人工肺(ECMO)などのデバイスを接続しており、CT室や透視室など検査機器がある場所へ移動させるリスクは高い。「移動せずにより詳しい検査ができるなら、救急医療においては大変有用です。X線動態解析はその選択肢の1つと考えられます」(昆氏)。短時間ながら本来であればX線透視撮影で実施するような処置に応用した実績もあるという。こうした使用経験から、昆氏は「X線動態解析は救急治療領域のゲームチェンジャーになりうる技術です」と高く評価した。

聖マリアンナ医科大学 昆祐理氏

「X線動態解析は救急治療のゲームチェンジャーになる」と聖マリアンナ医科大学の昆祐理氏

身近なクリニックへの普及も視野に

現在、X線動態解析装置を導入している医療機関は国内で約80施設、全世界でも約150施設に達した(いずれも2023年3月時点)。海外では米国、中国が中心だが、欧州や新興国にも普及し始めている。

現在は呼吸器診療での活用例が多いが、他の診療科から「動きを可視化できるという特徴を生かせるのではないか」との期待も高まっている。整形外科領域もその1つだ。「高齢者に多い『変形性膝関節症』では、膝関節を人工関節に置き換える手術が行われることがあります。こうした手術は患者様の負担が大きい上、高齢化による患者数増加が医療コスト増大の要因にもなっています。X線動態解析が、このような関節疾患に対しても有効なスクリーニングツールとなり、早期発見・早期治療によって手術を回避可能な患者様が増えることで医療課題における解決手段になるのではないかと考えています」と中村は語る。対象領域を拡大しながら、地道にエビデンスづくりを進める考えだ。

コニカミノルタは医療機関との共創を広げるため、医師や放射線技師らを対象とする「X線動態画像セミナー」を定期的に主催している。装置を導入した病院の医師などから、使用経験や研究の進捗を発表してもらうもので、毎回、オンラインで500人以上の医師や診療放射線技師が参加しているという。昨年からは、診療放射線技師向けに特化したセミナーも開始した。

将来的には、中小病院やクリニックへの導入も視野に入れる。「X線装置は小規模クリニックでも多くが導入しています。地域の日常診療を担うクリニックでX線動態解析が可能になれば、多くの診療情報が得られる検査や診療を気軽に受けられますので、患者様の受診効率の最適化が期待できます」と中村は意気込む。

医療費増大に悩んでいるのは日本だけではない。医療人材不足も深刻化している。新興国では、CTやMRIのような高価な検査機器の導入が難しい。低コストかつ簡便に高度な医療を提供するX線動態解析は、医療界の構造変革や世界の医療の課題解決に貢献しうる画期的技術として、さらに期待が高まりそうだ。

*Imaging Insightのこちらの記事も併せてご覧ください。

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