2023年は、世界初のプラネタリウムがドイツで誕生してから100年、コニカミノルタの前身である千代田光学精工が、国産初のプラネタリウムを上市してから65年目に当たる。プラネタリウムの開発、製造には高度な光学技術が必要だが、コニカミノルタは半世紀以上にわたり、プラネタリウム機器の製造とコンテンツ制作、直営館の運営をトータルに手掛ける“世界で唯一のプラネタリウム総合企業”として業界をリードしてきた。コニカミノルタはこの分野にどのような革新をもたらし、社会課題の解決に貢献しようとしているのか。その現在地と未来像を映像ソリューション事業部 事業部長でコニカミノルタ プラネタリウム社長である古瀬弘康に聞いた。

目次

デジタル化の加速とリアルな星空の再現へのこだわり

日本は、全国に約350施設のプラネタリウムがひしめく世界有数のプラネタリウム大国である。国内では1970~1990年代に設置のピークを迎え、科学教育の場としての役割を担ってきた。

プラネタリウムといえば、ドーム中央に置かれた独特な形状の投影装置が思い浮かぶが、それは光学式プラネタリウムのもの。近年ではデジタル化の波が押し寄せている。恒星原版や集光レンズを組み込んだ投影装置から星をドームに投影する「光学式」に対して、「デジタル式」は星をCG映像としてプロジェクターで投影する。

古瀬は、「光学式はシャープで美しい星像が投影できるのが特徴です。一方、デジタル式は星空だけでなく、文化財の解説動画や風景など、さまざまなコンテンツを映し出すことができます。また、光学式に比べて導入費用が安いというメリットもあります。日本では光学式が根強い人気を持っていますが、世界的にはデジタル式が急速に普及しつつあるのが現状です」と解説する。こうした環境変化に対応するため、コニカミノルタは2019年12月、フランスのRSA Cosmos社を100%子会社化。デジタル式の開発・製造体制を強化した。

さらに、最新のデジタル方式として注目される「LEDパネル方式」も国内では初めて導入した。ドームの壁面全体に数千枚ものLEDパネルを貼ったもので、投影式に比べて画像がシャープで明るく、壁面自体が発光するから投影機もプロジェクターも不要。観客は全天に映る映像をどこからも遮るもの無く眺めることができる。「DYNAVISION-LED」と名付けられたこのLEDドームシステムは、現在、名古屋と横浜の直営館、満天NAGOYAとプラネタリアYOKOHAMAに導入されている。

ただし、LEDドームでの星空の再現は困難を極めたという。古瀬は「苦労したのは、いかに正しく美しい星空を再現するかということです。星の色や明るさを再現するため、ディスプレイ製品メーカーの開発・製造現場で活用され、世界でもトップクラスのシェアを誇るコニカミノルタの光源色計測技術を使い、千葉大学と共同研究を実施しました」と語る。

コニカミノルタ 映像ソリューション事業部 事業部長 コニカミノルタプラネタリウム 社長兼CEO 古瀬弘康

「ご夫婦での鑑賞も珍しくありません」と古瀬弘康・映像ソリューション事業部長兼コニカミノルタ プラネタリウム社長。実際、平日の午前中の上映に、40−50代の女性グループや若いカップル、高年齢の夫婦など、さまざまな客層で賑わっていた。

ライブ演奏や大人向けコンテンツなど多彩な番組で人気に

コニカミノルタ プラネタリウムでは、従来のプラネタリウムのイメージを一新する斬新なコンテンツを次々に生み出している。例えば「ヒーリングプラネタリウム」は、アロマが漂うドームの中で、音楽とナレーションを聞きながら、星空を眺めて極上の時間を楽しんでもらおうというものだ。ほかにも、「星空の下で生演奏が楽しめるライブ作品や、著名ミュージシャン、声優・俳優の方々とコラボした作品を制作しています。2021年には、ギリシャ神話をモチーフに女性スタッフが手がけたR18指定のプログラムを上映、コロナ下でも満員御礼が続くヒット企画となりました」と古瀬は振り返る。

神話世界の幕間映像 LEDパネルの映像は稠密で色彩豊か

臨場感にあふれた幕間映像 LEDパネルの映像は稠密で色彩豊か

プラネタリアYOKOHAMAのCafe Planetariaでは星空にちなんだスイーツやドリンクが並ぶ。鑑賞中の飲食も可能

プラネタリアYOKOHAMAのCafe Planetariaでは星空にちなんだスイーツやドリンクが並ぶ。鑑賞中の飲食も可能

豊かなエンタメ性だけがコニカミノルタのプラネタリウムの魅力ではない。真骨頂は、専門知識に基づく星空の正確な表現にある。「たとえ、エンタメ系コンテンツでも、“星の位置や運行の正確さ”にはこだわっています。例えば、神津島では梅雨の季節になるとハート型の池ができますが、どの時間帯にどの向きから撮影すれば、池に月が映るのか。そういったことも考慮して映像を制作しています。科学性を損なう妥協はしない。それが当社のプラネタリウム用コンテンツ制作を貫く大原則です」

新たな産業イノベーション創出の場となり得る仮想空間

古瀬らは現在、オンラインによるコンテンツ配信を柱とした「プラネタリウムDX」のビジネスを展開している。これは、直営館で培ったコンテンツやサービス、顧客体験を世の中に広く提供しようというもの。この仕組みを活用して、社会課題の解決にも寄与していきたい、と古瀬は語る。

「今、全国の自治体では、“プラネタリウムの箱物化”という悩みを抱えていらっしゃる自治体も多くあります。せっかく多額の費用をかけて施設を作ったのに、平日は学習投影のみに使われ、来場者数が非常に少ない館も多いのが現状です。結果として、閉館せざるを得ないという判断になってしまうことも増えています。こうした悩みに応えて、当社のコンテンツや直営施設で培った運営ノウハウを提供し、コスト削減と集客に寄与することで、自治体業務のDX推進と地方活性化に貢献する。これが、当社の『プラネタリウムDX』戦略です」(図)

図 コニカミノルタが描くプラネタリウムDX戦略 全国のプラネタリウムに多彩なコンテンツを配信し、来場の活性化を図ることができる

図 コニカミノルタが描くプラネタリウムDX戦略 全国のプラネタリウムに多彩なコンテンツを配信し、来場の活性化を図ることができる

この構想に基づき、コニカミノルタでは2019年度、茨城県「つくばエキスポセンター」のご協力を得て、同社のコンテンツをクラウドサービスとして配信する「Connected Dome」の実証実験を実施した。その結果、同館の来場者数は前年の1.5倍に達し、集客効果が立証されることとなった。

「将来的には、全国のプラネタリウムをネットワークでつなぎ、地方創生やリカレント教育の充実にも貢献していきたいと考えています」と古瀬。

「高齢化が進む中、老後の生きがいを見つけていただく意味でも、当社のプラネタリウムのコンテンツを身近な施設で楽しんでいただきたい。今はまだ実証実験の段階ですが、病院や介護施設にプロジェクターと受信機を導入して、プラネタリウムの“出前”をすることも考えられます。今後はプラネタリウムDXを通じて、癒しや学習体験といったコンテンツの価値を幅広く提供していきたいと考えています」

さらに、「プラネタリウムはそのドーム映像によって高度にリアルな臨場感を提供する仮想空間としての可能性を秘めています。頭部にディスプレイ等を装着することもなく、ドームを仰ぎ見る全員が一体になれる共有の場です。例えばリアルデータを基にした都市空間の再現や、自動車の自動運転や製造工程、建築現場のシミュレーションなど、産業界や自治体などに様々な価値を提供することができます。プレゼンテーションや商談、コンベンションの会場となり得るのです。コニカミノルタは収益性の高いインダストリー事業をさらに伸ばそうとしていますが、プラネタリウムを基盤にした映像ソリューション事業もその一角を担うことができると考えています」と古瀬は思いを語った。

コニカミノルタ 映像ソリューション事業部 事業部長 コニカミノルタプラネタリウム 社長兼CEO 古瀬弘康

プラネタリアYOKOHAMAのフロアにはCafe Planetariaのほか、星空にちなんだアクセサリーなどが並ぶギフトショップGALLERY PLANETARIAがあり、星空鑑賞の前後に多くの観客が訪れていた。

*Imaging Insightのこちらの記事も併せてご覧ください。

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