生産性の向上、そしてDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進を急ぐものづくり産業。それらの取り組みを加速させるものとして、期待されているのが「画像IoT×AI」技術である。コニカミノルタは強みとするイメージング技術をDNAとして受け継ぐ会社。その延長線上にある技術を磨き、「FORXAI(フォーサイ)」と呼ぶ画像IoTプラットフォームを提供する。産業界の課題にどう答えるのか。FORXAI推進部長 兼 インダストリーAI推進部長の京尾俊作に聞いた。

目次

熟練人材に頼らず生産性を向上させるには

日本の競争力が依然、低迷している。IMD(国際経営開発研究所)が昨年6月に公表した「世界競争力年鑑」2021年版によれば、総合順位は31位。2020年版の34位からは若干持ち直したものの、2019年版以降30位台をさまよい続ける。

弱点の1つと見られるのは、「ビジネス効率性」だ。「経済状況」「政府効率性」「ビジネス効率性」「インフラ」というIMDが掲げる4つの指標の中では、ほかの指標に比べ著しく順位を落とす。競争力の強化へ、デジタル技術の活用は不可欠だ。

ものづくり産業に目を向ければ、加えて「人」の問題が将来への不安を募らせる。

総務省「労働力調査」によれば、ここ数年、高齢(65歳以上)就業者の割合が9%近くで高止まりする一方、若年(34歳以下)就業者の割合は25%を切る。「ものづくり白書」2020年度版では、ものづくり企業における経営課題を尋ねた調査結果を基に、人材育成・能力開発の遅れを大きな経営課題と捉える。

求められるのは、熟練の専門人財に頼らずとも生産性の向上を図ることのできるデジタル・ソリューションというわけだ。例えば、人の目とつながりが深い画像処理をAIによって進化させ、さらにIoTによって接続機器の運用・遠隔管理・分析を容易にする画像IoT×AI技術は、産業界の課題解決策の代表例と言えるだろう。

パートナー企業と画像IoTソリューションの開発へ

「『見えないものを見える化する』技術は多様な社会課題の解決に役立ちます。ものづくり産業においてもデジタル技術で品質を見える化し、生産性の大幅な向上につなげられる」

技術の可能性をこう訴えるのが、FORXAI推進部長 兼 インダストリーAI推進部長の京尾俊作だ。「FORXAI(フォーサイ)」とは、画像IoT×AI技術を提供する画像IoTプラットフォーム。その名には「未来を切り開く先見性」と「AIを社会のために」という2つの思いを込める。

FORXAI推進部長 兼 インダストリーAI推進部長 京尾俊作

「コニカミノルタだからこその強みがある」と話す京尾俊作・FORXAI推進部長 兼 インダストリーAI推進部長

このプラットフォームは3つの要素で構成されるが、いずれもコニカミノルタの強みが詰まっている。第一に現場のデータを見える化する「Edge Device」は、メーカーならではの強みとなるデバイス製造技術。次にそれらデバイスから取得したデータを高速・高精度にAI処理を行う「Imaging AI」。Imaging AIのアルゴリズムは、コニカミノルタの150年の歴史の中で培った画像処理技術をコアに最先端のAI技術を融合したもので、先駆的と言える技術である。最後はデバイスとクラウドをセキュアかつ容易に連携し、取得したデータ管理とAI処理を実行する「IoT Platform」。京尾は「これらの技術を三位一体で提供できるのはコニカミノルタならではであり、メーカーとしての強みだ」と強調する。

多様な社会課題にどう向き合うのか。FORXAIでパートナー企業と共創することで迅速かつ高付加価値なソリューションを開発し、それを現場に適用する、というスタイルだ。

FORXAI パートナーとのエコシステムによりデジタルソリューションを提供

パートナー企業と共創することで多様なソリューションを展開する

京尾が一例に挙げるのは、検査の工程である。

「熟練技能者の『人』の目と脳をカメラ・AIを活用したデジタルの『機械』に置き換えることで、作業効率を高めるとともに、人的ミスをなくし検査品質を向上します」

機械の目で見抜くべきは製品の外観不良となるが、AI学習には教師データとなる不良画像が大量に必要になる。しかし現場では、不良は出さないのが原則となるため教師データは限られ、デジタル活用が進展しないと言われる。

「そこに工夫がある」。京尾は胸を張る。説明を聞くと、大量に収集可能な良品画像でまずAIを学習させ、それと異なるものを見つけたときにその製品を不良として検出する、教師データが不要な「教師無しアルゴリズム」を用いているという。これにより、迅速かつ容易にデジタル化への置き換えが可能となる。また、さらにこれら新たに検出したデータを学習することで検出精度を向上し品質を向上できるという。

京尾には、ものづくり産業でのデジタル活用、すなわちデジタルマニュファクチャリングを基盤としたビジネスを社内で提案し、いまの職務を任されるに至った経緯がある。ものづくりの現場で抱える課題には精通しており、画像IoT・AI活用によるデジタル活用は検査工程にとどまらない。

「製造装置の稼働状況や温湿度など様々な影響因子を監視し、検査結果との相関を見れば、製品の不良がなぜ生じたのか、要因の分析を大幅に効率化できます。分析結果を基に対策を講じれば、不良率はさらに抑えられる。自動で進化し続けるものづくりがFORXAIで実現できます」

FORXAI推進部長 兼 インダストリーAI推進部長 京尾俊作

「人」と「機械」の共存共栄で課題を乗り越える

現場のデータは、「IoT Platform」活用によりエッジデバイスとクラウドとで処理を分担し高速化を図る。先ほどの検査の例で言えば、不良検知はエッジデバイスでリアルタイムに処理し、要因分析や経時変化はクラウド上での処理、と切り分ける。

FORXAIの価値提供の領域は、ものづくりの現場に限らない。ヘルスケア・介護、リテール、スポーツなど、幅広い領域でパートナー企業とともにそれぞれの課題に向き合い、顧客自身も気づいていない課題にアプローチすることで、より高付加価値なソリューションを迅速に、かつ持続的に提供していく。

京尾が目指すのは、「人」と「機械」が意識せず共存共栄する社会だ。「機械」に焦点を当てると、働き世代の減少とグローバルでの競争力の維持・向上という課題にはテクノロジーの活用が必須。一方、「人」に焦点を当てると、すべてがロボットに置き換わるものではなく人が主体的に関与すべき、人と人、人と機械とのタッチポイントこそが重要となる。「機械」で作業の高度化を図りつつ、「人」はよりクリエイティブな業務に集中できる、そのような社会実現を目指している。

また、機械の役割には、京尾はさらに新しい可能性も見いだす。

ヒントは、将棋の藤井聡太五冠のAI活用に触れた記事だったと話す。藤井五冠は序盤や中盤の形勢判断にAIを活用しているのだそうだ。将棋とAIと言えば、プロ棋士との対戦成績が話題を呼んだが、人間とAIの関係は「対立」から「共存」に移行し、「人間はどんどん強くなる」と見通しているのだという。

「この記事に触発され、ものづくりの現場においても熟練工に新たな気付きを与える役割もAIには期待できるのではないか」。京尾はそう振り返り、「気付き」の一例を挙げる。それは、歩留まりを左右する影響因子への気付きである。

FORXAI推進部長 兼 インダストリーAI推進部長 京尾俊作

当社の生産現場では、熟練技能者が製造装置を調整したり製造条件を管理したりして、ようやく歩留まり率70~80%を確保できる製造難度が高い工程がある。「ところがその現場では、AIを活用し歩留まり率90%を達成した。現場のプロも気付かない影響因子があったのです」。

AIとの共存によってプロ棋士がどんどん強くなるように、熟練技能者もどんどんスキルに磨きを掛けられるようになる――。人と機械の共存共栄がもたらす新しい可能性を、京尾はこう見立てる。

コニカミノルタでは2030年を見すえ、労働人口の減少などの社会課題が当社グループと社会に与える影響を「機会」と「リスク」の観点から評価し、バックキャストの発想で「今、私たちがなすべき」ことを5つのマテリアリティとして再特定している。

そのマテリアリティの2つが、「働きがい向上及び企業活性化」であり「社会における安全・安心確保」だ。幸い私たちには「見えないものを見える化する技術」と技術を社会に役立てるソリューションがあり、それらの活用に事業機会を見出している。

「FORXAI」はその一例。創業以来約150年にわたって培ってきたイメージング技術というコニカミノルタのDNAを生かし、ビジネスを通じて「働きがい向上及び企業活性化」「社会における安全・安心確保」というマテリアリティに挑戦していく。

*Imaging Insightのこちらの記事も併せてご覧ください。