コニカミノルタは今年度を成長基盤の確立の年と位置付け、さらなる成長を目指し、課題解決に向けて自律的に行動するプロフェッショナル人財の育成に力を注いでいる。その一環として新入社員研修プログラムを一新、2025年度には、社内から公募した業務課題の解決に取り組む「総合演習」を新設した。研修プログラムの企画と運営は人事部の若手社員が担い、大きな成果を上げている。

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若手の意見を採り入れ、新入社員研修を刷新

コニカミノルタグループでは、新卒入社の社員に対し、2週間のグループ合同新入社員研修を行っている。今年度の新入社員研修では、最後の3日間をかけて「総合演習」を実施した。これは、研修で学んだ知識をフル活用して、課題解決のプロセスを実際に経験してもらおうというもの。2025年4月、当社東京サイト八王子(東京都八王子市)に複数のグループ会社から100名以上の新入社員が参集。社内5つの部門から検討を依頼された7つのテーマに取り組んだ。

今年度の新入社員研修の企画と運営を担当したのは、コニカミノルタ人事部の齊藤麻未と横田真子、コニカミノルタジャパン人事開発部の三橋萌々花の3名である。プロジェクトリーダーの齊藤は入社12年目、三橋は入社3年目、横田は入社2年目。総合演習は横田が主に担当することになった。

若手主導となった経緯を齊藤はこう説明する。「私は人事部に来て3年になりますが、研修の企画に携わるうちに、『望ましい社員研修のあり方について、人事部と新入社員の捉え方に乖離がある』と感じるようになりました。『コニカミノルタを好きになって、成長を実感してほしい』という人事部の願いが、新入社員にうまく伝わっていないように思えたのです。しかし、若手社員がその点について指摘しても、社歴の長い先輩方の意見が優先されがちでした。そこでこの状況を変え、若手の声を企画に反映したいと考えました」

人事部 齊藤 麻未
「総合演習はプロフェッショナル人財を育てる第一歩になりました」と述べる人事部の齊藤 麻未。14年コニカミノルタ入社。開発部門を経て22年人事部に配属。現在は新入社員研修全体を統括する。業務では若手社員の育成を担当。

齊藤は上司の了解を得て、「人的資本経営を推進し、若手社員の成長を促す意味でも、新入社員研修は若手メインで進める」と部内で宣言。若手を主体とした研修改革がスタートした。

社内で業務課題を公募し 新入社員が解決策を提案

新入社員研修の内容をどう変えれば、新入社員をプロフェッショナル人財の卵として第一線に送り出せるのか。3人は従来のカリキュラムの課題を洗い出し、あるべき姿を検討した。「昨年までの新入社員研修はインプット型の講義が中心でしたが、研修で学んだ知識を定着させるにはアウトプットの機会を増やした方が良いと考え、課題解決を実際に経験できる総合演習を新たに加えることにしました」と三橋は語る。運営チームは社内に広く呼びかけ、解決すべき業務課題を公募した。呼びかけに応じて5つの部門が手を挙げ、総合演習への協力を申し出てくれた。

人財開発部 三橋 萌々花
「若手社員とは天気の話ぐらいしかできないと嘆く中堅社員も少なくありません」と指摘するコニカミノルタジャパン人財開発部の三橋 萌々花。23年コニカミノルタジャパン入社後、現在まで人財開発部に所属。業務では新入社員教育、DX実践教育を担当。

総合演習の大まかな流れはこうだ。新入社員はチームごとに部門から依頼された課題について、まず事前調査を実施。その結果に基づいて該当部署にヒアリングを行う。その内容を分析して施策を立案し、上司役からのフィードバックも反映してブラッシュアップし、まとめた施策を発表する。

「上司役については人事メンバーが担当しました」と横田。「上司役は施策の内容だけでなく、研修で学んだ様々な観点からフィードバックを行います。例えば、相手側の視点に立った施策になっているか、仕事に取り組む姿勢はどうか、DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)の観点を踏まえてチームメンバー全員で議論できているか、他部門と共創するために必要なビジネスマナーは身についているか、などです。これから仕事をしていく上で必要となるマインドやコミュニケーションを含め、しっかりフィードバックしました」と横田は説明する。

人事部 横田 真子
「(総合演習の担当は)私にとって大きな学びとなりました」と語る人事部の横田 真子。24年コニカミノルタ入社後、現在まで人事部に所属。業務では新入社員育成、人事企画を担当。

学びの最大化と質の高いアウトプットの両立にこだわる

「この演習では『新入社員の学びの最大化』と『協力部門に対する質の高いアウトプットの提示』が求められます。この2つをいかに両立させるかが最大の課題でした」と横田は振り返る。運営チームは部内のメンバーや協力部門と意見交換を重ね、2つの要件を両立させる最適解を模索した。その結果、ヒアリングと施策検討を2段階で行うシナリオへと結実した。

初回のヒアリング後、新入社員から様々なアイデアが出てきたところで、上司役が「協力部門が依頼したそもそもの目的は何か」と問いかけた。「相手の目的に立ち返って再考する」ことを促すためだ。それを踏まえて、2回目のヒアリングでは問題の本質や潜在的ニーズを深掘りし、課題解決につながる施策の検討を行った。

「3日間の演習の中であえて“壁”を設定し、それを乗り越える状況を作りました。シナリオを作る中で、『このポイントでは上司役はこういうアドバイスをしよう』と申し合わせ、協力部門には『1回目のヒアリングでは、受講生から聞かれたことにだけ答えてほしい』などと依頼しました。打ち合わせを重ね、丁寧にストーリーを作り込んでいきました」(齊藤)

フィードバックの仕方にも工夫を凝らした。例えば上司役は受講者に対して、あえて具体的なアドバイスはしない。課題解決を急いで受講者を誘導すれば、学びを阻害しかねないからだ。「正解を与えるのではなく、様々な角度から問いかけを行い、自ら気づきを得られるようにする。自ら考えることで学びを深めてもらおうと考えました」(横田)

総合演習の様子
総合演習では、協力部門とのヒアリングを通して研修で学んだことを生かし、問題の本質や潜在的ニーズを深掘りし、業務課題の解決につながる施策の検討を行った。

「新入社員の意見が聞きたい」と5部門が演習に参加

今回の「総合演習」では、広報部を含めた5部門が課題を提供した。協力部門は何に魅力を感じてこのプログラムに参加したのか。広報部の西上直孝は、「広報部が計画している施策について、我々のターゲットに近い新入社員の目線でアイデアを出してもらいたい、というのが参加の動機でした」と明かす。

現在、広報部では、LinkedInなどSNSの活用に注力している。「SNSのフォロワーを増やすことで、社外のファンの獲得や社内でのエンゲージメント向上につなげたい」と考えていた。今回の演習で新入社員が提案したフォロワー増加策のうち、最も広報部の目を引いたのが、「コニカミノルタと海外販社のアカウントを連携し、リレー形式で動画を配信する」というアイデアだった。このアイデアを膨らませられれば、国境を越えてフォロワーの輪が広がり、様々な副次効果を生み出すことができる。新入社員の提案がヒントになって、部内でも様々な着想が生まれていった。

「今回の総合演習では、新入社員が3日で作ったとは思えないほど完成度が高い提案を受けることができました。いくつかのアイデアについてはすでに実践しており、新しいことを始めるきっかけになりました。その意味で総合演習は成果を生み出していると実感しています」(西上)

では、新入社員にとって総合演習で得た学びとは何だろうか。「新入社員からは、『社会人として自分に何ができて何ができないのかを実感できた』『自分から積極的にコミュニケーションを取る大切さを学んだ。配属先でも非常に役立っている』など、様々なコメントが寄せられました。また、ヒアリングが2回では不十分だとして協力部門に掛け合い、追加のヒアリングを行ったチームもありました。こうした主体的な動きが出てきたことも総合演習の成果だと感じています」(横田)

「総合演習」で成長したのは新入社員だけではない。今回の研修をリードした横田も自身の成長を実感したという。「研修を主導するのは初めてだったので戸惑うこともありました。他部門の方から要望を聞き出し、自分たちの狙いを伝えるのは大変な作業でしたが、多くのアドバイスを得て研修を進めることができ、私にとっては大きな学びとなりました」

新入社員を個として捉え プロフェッショナル人財を育成する

若手社員の力を活用する人事部の取り組みは、総合演習だけではない。人事部では今年度、新たに「オンボーディングサイト」を開設した。新入社員全員の自己紹介を掲載した社内向けサイトで、コニカミノルタジャパンが開発、2022年から同社内だけで運用していた。

同サイトを担当した三橋は、開発の経緯をこう語る。「今は週末の予定すら知られたくないと考える若手も多く、趣味などを聞き出すのも難しいのが実情です。『若手社員とは天気の話ぐらいしかできない』と嘆く中堅社員も少なくありません。こうした状況や、コロナ禍において対面でコミュニケーションをとる機会が激減したことが、オンボーディングサイトを開設するきっかけになりました」。新入社員が自ら情報を開示することで、職場の上司・先輩や同期とのコミュニケーションを促すのがこのサイトの主な目的だという。より良い信頼関係を構築するため、今年度からグループ全社で展開することになった。

今年度の新入社員研修で実施した総合演習は、コニカミノルタの人財育成にどのような価値をもたらしたのか。齊藤は、「人事部と協力部門、協力部門と新入社員がつながり、シナジーを生み出すことができました。それが今回の総合演習の重要な成果だと考えています」と述べる。「このプログラムを通じて、新入社員には自分の立ち位置を理解してもらえたと思いますし、次世代リーダー候補となりうるポテンシャル人財も可視化されつつあります。新入社員を“個”として捉え、プロフェッショナル人財として育てる第一歩を踏み出すことができたと考えています。また、三橋さんと横田さんにもそれぞれの役割を委ねきることで、協力部門との調整や意見出しなど主体的に動いてもらいました。この研修を通じて、お二人も今後の企画職のキャリアに向けた成長ができたのではないでしょうか」。齊藤はこう総括した。

齊藤 麻未/三橋 萌々花/横田 真子