コニカミノルタは今年4月、社内にDX推進室を設置した。この部署はトップダウンとボトムアップの2つのアプローチで社内DXを確実に進めることをミッションとする。背景となるIT分野のトレンドは「データ統合基盤」「AI」「ローコード開発ツール」の3つ。とりわけ「AI」は、昨年7月に生成AI活用特任チームを立ち上げたこともあり、注目度が高い。今回は、上席執行役員 経営企画 副担当 兼 DX推進室長の伴野篤利と、生成AI活用特任チームを率いる技術フェロー 技術開発本部 技術担当の奥田浩人に社内DX推進と生成AIの活用について話を聞いた。
IT分野の3つのトレンドとチームの役割
――今なぜ、社内DXを推進すべきなのか。DX推進室の役割と併せて教えてください。
伴野それは、DX推進の源泉となる3つのトレンドがIT分野で生まれているからです。第1が「データ統合基盤」です。異なるIT基盤やデータベース上のデータを、単一のIT基盤上に手軽に統合できるようになりました。次に「AI」です。マシンラーニングやその発展形であるディープラーニングによって、過去の情報から将来を類推するモデルを比較的容易に構築できるようになった上に、昨今は生成AIの急速な発展により文字や画像等の情報をコンピュータが学び、人間に提供できるようになりました。3番目は「ローコード開発ツール」の登場です。直感的なユーザーインタフェースやAIの支援によって、コーディングの高度な知識がなくても業務用ツールを開発できるようになりました。現場主導のDXを推進しやすい環境が整ったと言えます。
これらの技術を有効活用して生産性向上に結び付けたいと考えています。社内DXによって生産性の向上に成功した企業が競争優位に立てることは疑いようがありません。
DX推進室の役割は、社内DXを会社として確実に進めていくことにあります。各現場は、技術面、人材面、予算面などで制約を抱えているケースが多く、せっかくDXによる生産性向上の機会があってもそれらの制約により加速できない場合が往々にして起こり得ます。DX推進室としては、各現場の課題解決を支援する一方、グループ内の好事例や技術情報を全社で共有し、社内DXを全社で最大限加速させていきます。
――生成AI活用については、昨年7月に特任チームが立ち上がっています。チームの役割と1年間の活動についてお話しください。
奥田昨年来、生成AIは大きな注目を集めています。当社でもあらゆる部門で業務効率化に活用できないかを模索してきましたが、ばらばらに動いたのでは効率が悪いのは明らかです。そこで全社横断的な特任チームを組織したのです。
チーム立ち上げ時には、各事業部やコーポレート部門などから自ら志願した約30人が集まりました。生成AI活用のアイデアを持っている社員が集まったこともあって、業務の効率化に役立つ用法が生まれています。例えば当社が毎年刊行している技術論文集の内容を対話形式で検索できるシステムがその1つです。社内に蓄積されている技術資産を効果的に活用できる環境が実現しています。
生成AI活用特任チームの目標は、トライアルを通じて生成AIにできることとできないことを理解したうえで、業務生産性向上や事業活用につなげることです。
全社戦略と課題起点、2つのアプローチ
――DX推進室は、トップダウンとボトムアップという2つのアプローチで社内DXを推進しようとしていますね。
伴野2つのアプローチについて説明しておきましょう。「トップダウン」とは、規模の大きなバリューチェーンについて会社主導で進めていくアプローチです。例えば情報機器事業では、国内外の約3万人が開発、製造、販売、サービスに携わっていますので、一人ひとりの生産性向上は大きなインパクトがあります。また、販売、サービスの機能に関しては、各国で似たようなオペレーションが行われているので、業務の共通性が高く、DX実施の際にレバレッジが利きやすいです。グローバルな視点に立ち、データプラットフォームやAIの活用によって生産性を上げていく方針です。情報機器以外の事業を含めたスコープにおいても、企画、管理、開発、生産、販売、サービス、品質保証等において共通の課題は多いので、それぞれの機能(バリューチェーン)においてDXを実現して横展開していく活動がトップダウンアプローチです。
一方、「ボトムアップ」とは、各部門で掘り起こした課題を起点とするDXです。各組織で業務プロセスを見直して、DXで生産性を上げていく。こうしたアプローチによって、小さいながらも現場が成果を感じられれば、DX文化の醸成にもつながります。また成果をアピールできる場を設ければ、ほかの部門にもDXが広がり、文化醸成に弾みがつきます。こうしたアプローチを取ることについては、国内の全事業部門に呼び掛けてきました。DX推進室は各部門の活動に伴走していきます。
DX推進のポイントは、生産性の向上を実現することと投資対効果にこだわることの2つです。そのため、定量的な目標を定め、モニタリングを繰り返すことが重要です。対象業務を会社や顧客に対して経済価値を生み出す付加価値業務だけに絞り込み、デジタル化を進めた上で、評価していくことになります。DX推進室は、各部門で企画した内容を基にDX推進を支援していきます。
――生成AI活用特任チームにも、活動を通じて組織風土を変革するという意識がありますか。
奥田はい。私たちには生成AI活用の実験場という位置付けもあります。チームで身に付けた技術や考え方を、集まったメンバーが所属部門で広めてほしいと考えています。フラットな組織にして透明度の高いコミュニケーションを心がけ、機動性を高めることを重視しています。例えば、報告自体が目的になっているような形式的なレポートは求めませんし、会議は2週間に1度の報告会だけ。それも、自身が報告する時だけ参加すればよいので、わずか5分間で済みます。議事録は生成AIによる自動作成です。一方、DXという観点で業務時間を見直す中で、例えば、なぜこの会議に60分必要なのだろう、50分で済ませられないのか。そういったこれまでの仕事のやり方を問いなおす作業が求められます。これは、DXを進める副次効果といえます。
膨大なデータ検索や定型文書の作成に活用
――伴野さんは社内DXの推進責任者として、AIを活用する意義をどのようにお考えですか。
伴野ビジネスでは、正しい現状把握と将来予測によって、より良い意思決定を下すことが求められます。過去のデータを基に、精度の高い現状把握や将来予測を可能にするのがAIです。現時点では、生成AIの活用以前に従来型のAIも投資対効果の面で十分活用し切れているとは言い難いです。一方で、生成AIは、世の中の投資の規模や方向性を考慮すると、ITシステムと人間の役割分担を大いに変える可能性が高いと思います。従来のAI、生成AI、それぞれ向き不向きがありますから、どの場面で何を活用すべきなのか、しっかり見極めたいですね。
――生成AIを活用した事例を紹介してください。
奥田膨大なデータを活用しようとする際、生成AIに必要な質問を投げかけると内容を理解し、求めているデータを探し出して回答してくれます。先にお話しした技術論文集の内容を対話形式で回答できるシステムはこの能力を活用したものです。また、事業企画系の業務の一環として、他社の製品情報を収集・分析したり、環境関連の法規制の最新情報を収集・分析したりする作業でもこうした能力を活用しています。このほか、特許関連文書の作成は一部ですでに実用段階にあります。こうした生成AIの活用事例は、担当者がまず現場で試し、他部門で同様のニーズが生まれれば水平展開していきます。
――最後に、社内DXと生成AI活用の将来像についてお話しください。
伴野社内DXの延長線上には、お客様に対する「攻めのDX」があるとみています。しかも、この2つはシームレスになるでしょう。考えられるシナリオは次のようなものです。社内DXが効果を上げていくと、販売、サービス、商品企画などの各担当者がサービスラインごとにチームを組み、朝方に発見した新たな価値を夕方にはサービスとしてお客様に迅速に提供できるようになる、といった姿です。
どのようなサービスがお客様の価値向上につながるのか、社内DXの経験を通じていち早く察知して、迅速に提供できるようになる能力をコニカミノルタが身に着ける、ということです。企業活動のアジリティ(機動性)が大幅に向上するのが、理想的な姿です。
奥田会社組織のあり方や仕事のやり方が大きく変わるでしょう。例えば、従業員数が今の10分の1になる会社があっても不思議ではありません。生成AIを活用する中で仕事のやり方を見直さざるを得なくなり、効率性があぶりだされるようになります。ただ、そういう時期がいつ訪れるのかは必ずしも明確ではありません。それでも、社内DXを推進する中で生成AIの活用は今後、確実に進んでいくはずです。
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