コニカミノルタはこの5月、生成AIをテーマにした初の社内イベント「Generative AI Day」を開催した。生成AIの活用事例を社内で共有、さらなる活用に向け、事業部門と技術部門が一体となって取り組むことでDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速する。

昨年来、あらゆる分野で生成AIの活用が話題になっており、その効果や課題が徐々に明らかになりつつある。コニカミノルタでは、マイクロソフトが提供する生成AI「Copilot」を導入し、全社で活用を促してきた。今後は生産性の向上をはじめ、生成AIの活用で成果を上げていくことが欠かせない。

弊社ではこの5月、東京・八王子の事業所にて通年で実施するDX関連の社内イベント「DXシナジー・マッチングフェア」の第1回として、生成AIを特集したGenerative AI Dayを開催した。生成AIの活用事例を報告し合い、好事例を社内に横展開することで、社内DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する狙いだ。

Generative AI Day

東京・八王子で5月に開催されたGenerative AI Day

イベントを主催したのはDX推進室と生成AI特任チーム。生成AIの社会実装が求められる今、社内でも事例・知見が蓄積したためスピード感を重視し短期間で開催に漕ぎ着け、事業部門や開発部門を中心に国内各地からのリモート参加も含め、320人以上が参加、5時間を超えるイベントは大いに盛り上がった。プログラムは「技術ピッチ」と呼ぶプレゼンテーションに加え、実機によるデモンストレーションや1分間で活動内容を語る「ライトニングトーク」などが行われた。

イベントの冒頭、キックオフスピーチに立った上席執行役員 DX推進室長の伴野篤利は、「DX推進では個人の生産性向上が至上命題。分散しているデータを統合的に分析して高度な意思決定に繋げたり、生成AIなどの活用による業務効率化で社員が自発的に取り組む風土を醸成したい」とし、「企業として取り組む以上、ROIを追求する。またグローバルで”オーケストレート”することが重要だ」と述べた。

上席執行役員 経営企画副担当 兼 DX推進室長 伴野篤利

「自発的に取り組む風土を醸成したい」と上席執行役員 経営企画副担当 兼 DX推進室長の伴野篤利

また、技術フェローの奥田浩人は「今回のイベントは、生成AIの取り組みを共有する念願の機会だ」として、「技術の紹介をして終わりではない。ボトムアップとトップダウンの両方に働きかけて 全社に展開していくことを考えている」と意義を強調した。

技術フェロー 技術開発本部 技術担当 奥田浩人

「コニカミノルタは変曲点を迎えている」と技術フェロー 技術開発本部 技術担当の奥田浩人

どんな活用事例が報告されたのか――。ここでは、社内DXの推進による生産性の向上という観点から、特に注目を集めた2事例を紹介する。

目次

GitHub Copilot活用でエンジニアのITスキル獲得を実現

まず紹介したいのが、「Re:0から始めるプログラミング生活」と題した報告である。副題は「GitHub Copilotのトライアル」。発表チームは、マイクロソフト傘下のGitHubが提供するクラウド型AIツールである「GitHub Copilot」の導入効果を検証した。

「GitHub Copilot」とは、ソフトウエアのソースコードを自動生成する生成AIである。ソースコードとはプログラミング言語で記述された文字列のこと。人間がソースコードを入力していくと、GitHub Copilotはその先を予測し、ソースコードを提案してくれる。「GitHub」にはさまざまなプログラミング言語で書かれたソースコードが膨大に蓄積されており、それを学習データとして利用している。

発表チームは、GitHub Copilotの有用性を確かめた。検証したのは、ソフトウエア開発者にとって開発スピードの加速につながるか、そして、非IT系エンジニアがコーディングレスでソフト開発を行うスキル獲得できるかの2つ。

2023年7月に社内横断組織として立ち上げられた生成AI活用特任チームの30人が7チームに分かれ、同年10月から12月にかけて検証作業に取り組んだ結果、一定程度の導入効果が認められたという。

まずソフトウエア開発者においては、「GitHub Copilot」を利用すると、利用しない場合に比べ、ソースコードの作成時間を約30%短縮できた。しかもトライアル後のアンケート調査では、検証参加者の80%がGitHub Copilotの継続利用を希望したという。

Re:0から始めるプログラム生活」を発表したチーム

「非IT系エンジニアでもコーディング支援を受けて1か月で開発できた」と報告したのは「Re:0から始めるプログラム生活」を発表したチーム

次に非IT系エンジニアに使わせてみたところ、ITスキル獲得に有用な結果を得ることができた。実験に参加したのは、今回の発表者の1人で、物理・光学を専門とするエンジニアだ。ソフトウエアの開発経験はゼロ。アプリ開発・修正のスキルを身に付ければ業務の幅が広がる。しかもその仕事ならリモートワークでも対応できそう、という期待が、志願の動機だという。

このエンジニアは、「Python」というプログラミング言語を用いて、日常の業務で用いるGUIアプリを開発することを目指した。「GitHub Copilot」に要求を入力し、提案してきたソースコードをつなげて、設計した機能を実装していった。開発に要した期間は、日常業務の間を縫いながらの作業で約1カ月。ソフトウエア開発の経験がなくても、所望の機能を実装したプログラムを構築することができたと評価した。

GitHub Copilotの利点として、①「2画面を切り替えられるユーザーインタフェースを作成したい」などと書くだけでソースコードが自動生成される、②何度でも遠慮なく質問でき、提案されたソースコードを見ながら学習できる――などを挙げ、「開発したアプリに機能を追加しながら、知識や経験を増やしていきたい」と意欲を見せていた。

発表者らがこうした検証を行った背景には、業務上の深刻な課題がある。それは、ソフトウエア開発へのニーズが増大する一方であるにもかかわらず、対応できる人材が不足していることだ。

ソフトウエア開発は外注することが多く、仕様の変更や追加が高頻度で発生するため、費用もかさむ。「GitHub Copilot」を導入することで、専門の開発者でなくても必要なソフトウエアを開発でき、リスキリングにも使えるのでは、と期待が高まった。今回の検証ではパイロット事例とはいえ、こうした期待を裏付ける結果になった。コニカミノルタでは、社内DX推進を目指し、必要なスキルを備えた人材育成を進めている。こうした事例を社内に横展開していくことで、各事業分野で求められるスキルの獲得が進み、DX人財の育成やコミュニティ構築が加速しそうだ。

豊富な技術資産を生成AIで活性化

もう1つは、「技術資産AI-Chat ~人・技術を繋ぐ~」という報告である。発表チームは「技術資産AI-Chat」と呼ぶ生成AIアプリと開発の経緯、今後の展開について紹介した。

技術資産AI-Chatは、「テクノロジーレポート」の内容を対話形式で検索できるWebアプリである。「テクノロジーレポート」とは、コニカミノルタの研究・開発の成果をまとめ、年1回刊行している技術論文集で、社外にも公開している。ところが、発表者がヒアリングしたところ、社員の間では十分に活用されていなかった。

テクノロジーレポート」の内容を気軽に検索できるようになれば、必要な時に自らの求める社内の技術、人財、事業といった情報にアクセスでき、組織を跨いだイノベーションの活性化も期待できる。また、アクセスした社員の検索・質問内容を把握できるため、社内の情報ニーズをリアルタイムで収集できる利点もある。

発表者はかねてから、ナレッジの継承不足・部門間連携に課題があると考えていた。社外からの問い合わせに対して、紹介すべき事業部や担当者が分からなかったり、社内の技術についてまとめるとき、その詳細を簡単に知る手段が分からなかったりするなど、技術資産が十分に生かされていないというのである。

「技術資産AI-Chat〜人-技術を繋ぐ」を発表したチーム

「いずれはツールの社外公開も視野に」と述べたのは「技術資産AI-Chat〜人-技術を繋ぐ」を発表したチーム

発表チームが所属する技術戦略統括部のミッションは、社内の各部門と連携した中長期技術戦略の推進やイノベーションを起こすための戦略機能強化。技術資産の共有と活用は不可欠と考えていた。それが、生成AIアプリである「技術資産AI-Chat」の開発に取り組んだ動機だという。

技術資産AI-Chatはこの3月、社内向けにリリースした。利用状況を調べたところ、コア技術に関する質問が多く寄せられていることがわかったという。「テクノロジーレポート」の掲載論文からは執筆者の情報もたどれるため、技術を有する人財について知ることも可能だ。利用状況からすると、そうした執筆者情報への関心が高いことも明らかになった。

今後の展開としては、新規事業の創出を人財面から支援するために関連技術のキーパーソン同士のマッチング機能を持たせ、パートナー選定を加速させることを計画している。また、社外との共創が求められる時代だけに、社外公開も視野に入れているという。

コニカミノルタは、英国のクラリベイト社が優れた知的財産を有する企業を選定するグローバル・イノベーターに2022年以降3年連続で選出されているが、それを支えている一翼が膨大な技術資産だと言える。発表チームは、「技術資産AI-Chat」の開発を皮切りに、技術資産のこれまで以上の活用を促し、ナレッジ継承や部門間連携を改善したいとまとめた。

生成AI本格活用への機運が、昨年に比べぐんと高まってきた。好事例の横展開に伴い、社内DXへの取り組みにも弾みが付く。技術フェローの奥田も「今年は成果を出そう、数字を出そうというのが生成AIに対するトレンドだ。コニカミノルタは変曲点を迎えており、DXを進める機運が高まっているので、(生成AIを)全社に広めるための協力してほしい」と強調していた。

会場では6つの実機デモも行われ、熱心な討議があちこちで行われた

会場では6つの実機デモも行われ、熱心な討議があちこちで行われた

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