コニカミノルタは、お客様の“みたい”というニーズに応えるソリューションを提供することでマテリアリティを追求し、将来的な社会課題の解決に挑戦している。そのためにデジタルトランスフォーメーション(DX)を進め、DX技術人財(画像IoT人財)育成の強化を進めてきた。このほど、2023年度中にこの画像IoT人財1000人体制を実現できる見通しが立った。人財育成戦略の現在地と今後の展望を、技術戦略統括部 技術人財戦略グループリーダーの大西和子に聞いた。
画像IoT人財1000人体制を達成へ
人財育成の話は急に飛び出したわけではない。コニカミノルタは2014年に掲げた中期経営計画「TRANSFORM2016」で「モノからコトへ」、すなわちサービス事業重視へと大きく舵を切った。その直後の2016年頃からIT人財育成を検討し始め、2017年には具体的な育成施策をスタートさせている。
「製造業のコニカミノルタがサービス事業を推進するには、それまで存在しなかった種類のIT技術人財が不可欠です。お客様自身も気づいていない課題について問題提起できるデジタルカンパニーになるため、当社が得意とするイメージング技術にIoTやAIを組み合わせ、競争力を持った価値あるソリューションを生み出す必要があります。そのために必要なのが画像IoT人財なのです」と大西。
大西らは、画像IoT人財として9つの「DXロール」(人財タイプ)を定めて育成・採用を強化した(図)。また、一定基準を満たす人財に対する認定制度を設けてキャリアパスを見える化した。
「DXロール認定制度」では、9つの「ロール」それぞれについて、役割や人財像、3段階(エントリー/スタンダード/エキスパート)の客観的なスキル/タスク遂行レベルなどとその認定基準を策定。ロールごとに「コニカミノルタカレッジ」や「選抜研修」など、認定取得に向けた教育カリキュラムを提供している。認定審査はエキスパート人財から成る審査委員会が実施する。
このDXロールは、2022年度から全社的にスタートした「複線型人事制度」とも連係している。複線型人事制度では管理職に替わって「エンパワーメントリーダー」と「エキスパート」(ビジネス系と技術系に区分)を設けてキャリアパスを分け、それぞれマネジメントスキルや専門性を備えた人財を選抜していく。従来は技術職であっても昇進すると管理職になるしかなかったが、新たな制度下では技術の専門家として会社を牽引していくことも可能だ。技術系エキスパートから、さらに成長して技術フェローとして全社の技術革新を先導する立場にキャリアを形成することもできる。また、DXロールはCDS(キャリアディベロップメントシステム)とも連動し、的確な人財把握と人財活用が図られている。
こうした教育プログラムの整備やキャリアパスの設置などの施策を進めた結果、2023年3月末現在、スタンダードレベル以上の画像IoT人財は814人に達した。大西は「今年度末までに1000人体制にするという目標は、ほぼ達成できると思っています」と自信を見せる。
高いモチベーションによる新しいキャリア形成も
では、画像IoT人財育成について社員たちはどう考えているか。「若い人たちには好評のようです。教育プログラムを利用して自らの意志で成長し、新しいキャリアに踏み出す社員は少なくありません」と大西は言う。
顕著な成長を遂げた社員もいる。デジタル印刷システムの画像処理開発に従事していたあるエンジニアは、9種類のDXロールの中で、画像AIエンジニアの「部門受け入れ型教育プログラム」に参加した。この教育プログラムでは、受講者は横断的組織のAI技術開発部門に入り、1年間にわたって一緒に働きながら技術を習得する。エンジニアは研修後、受け入れ部門に異動して画像AIエンジニアとして活躍。世界最大のAIコンペティション・プラットフォーム「Kaggle(カグル)」が主催する「Image Matching Challenge 2022」で上位入賞し、金メダルを手にした。大西は「画像IoT人財育成の教育プログラムを利用し、獲得したスキルを発揮して生き生きと活躍されている方を見るのが、私自身の大きな喜びです」と語る。
活躍の場の創出と現場の意識改革が新たな課題
大西らが将来像を予測して整備を進めてきた画像IoT人財育成制度。現状は当初のゴール目前の段階と言える。大西は「ここにきて新たな課題が見えてきました」と気を引き締める。
「画像IoT人財育成制度は、コニカミノルタがお客様にバリューを提供し続けるため、サービス強化に必要な人財を育てることが最大の目的です。そのため、サービス開発を担う人財育成を事業化に先行して進めているのですが、現時点では、育ってきた人財が能力を発揮できる場が十分とは言えないのです。とはいえ、人財の育成と事業の拡大は「鶏と卵」のような関係ですから、人財育成の努力を緩めるわけにはいきません」と大西は語る。
現在、デジタル技術を活用した変革のニーズは急速に高まっており、現場の人財需要も変化しつつある。例えば、画像IoT人財育成制度で育成された人財のうち、約半数はデータサイエンティストだが、「データサイエンティストのスキルが、もともと想定していたデータビジネスやサービスビジネスの創出だけでなく、生産や営業のプロセス改革などといった社内のオペレーション分野でも有用性を発揮できることがわかり、実際に成果を出す部門が出てきました」という。育成制度運用の試行錯誤の中で得られた重要な知見の1つである。
一方、DXロール認定者を対象に実施したアンケートの中で、習得したスキルを現場で発揮できているかを尋ねたところ、「仕事で活用できている」と答えた割合は予想よりも少なめだったという。事業によってDXへの取り組みにばらつきがあるのも事実だ。
そこで新たな課題となるのが現場の改革だ。「あらゆる事業部門がDXを推進してビジネスで成果を上げていくためには、リーダー層の意識改革や、全社員がDXを自分事化できるようになることが重要です。また、私たちのように横断的組織にいるメンバーが現場に入って一緒にテーマを作り上げ、人財配置を行いながら徐々に実装していく取り組みが成果を上げている現場もあります。変革が実践できるまで伴走していきたいと考えています」(大西)。
タテ・ヨコの研修コミュニティが生む変革の萌芽
育ってきた画像IoT人財がフルに活躍できる場を作ることは簡単ではない。しかし、変革の萌芽のようなものができつつあると、大西は感じている。いわゆる「上から与えられた場」ではなく、人財育成プログラムに飛び込んだ個人が、日々の業務や仲間とのコラボレーションの中から自然発生的に生まれてきた場だという。
「DXロール認定を目指すスキルアップ教育の場が、新たなコミュニティ形成の場になり始めています。教育プログラムには毎回さまざまな事業部から多様な受講者が集まるため、自組織でDXの先駆者となったメンバー同士が、お互いの悩みやナレッジを共有して助け合うことが少なくありません。また、研修から何年か経った後も、何か困った時に『あの研修で一緒だった◯◯さんに手伝ってもらおう』というようなつながりが生まれているようです。価値あるコミュニティが誕生したと言えるのではないでしょうか」(大西)。
元研修生が新たな研修生を教えるピアエデュケーションも行われている。例えばシステムアーキテクト選抜研修では、DXロール認定者である修了生が運営委員を務め、先輩として受講生を育てる仕組みがある(写真)。1年以上の長期研修なので、タテ・ヨコの強いつながりが自然に生まれてくる。会社や事業が抱える問題意識の共有や、事業創出の仲間探しができるコミュニティという点では、企業からの派遣留学で知り合ったMBAホルダーの連帯感とも似ている。
「まだまだ課題は残されていますが、コニカミノルタには素晴らしい人財が数多く在籍していますし、世界トップクラスの高度な技術力もあります。幸い、画像IoT人財の育成プログラムは、単なる技術習得に留まることなく、受講者の意欲や知的好奇心などを刺激する場になりつつあります。私たちは、認定を手にした受講者たちが活躍し、習得した技術を現場に実装、事業化するところまで支援していきたいと考えています」大西はこう決意を新たにしていた。
*Imaging Insightのこちらの記事も併せてご覧ください。